経団連くりっぷ No.138 (2000年12月28日)

経団連第54回評議員会/12月13日
崔駐日韓国大使

南北首脳会談の意義と新たな韓日パートナーシップ

駐日韓国大使 崔 相龍(チェ サンヨン)

過去を直視し、未来を志向する韓日関係

2年前の金大中大統領訪日の際に、日韓共同宣言が結ばれ、過去を直視し未来を志向することが謳われた。歴史認識は、二つの知的な作業によって形成される。一つは、過去の歴史的事実の確認であり、もう一つは確認された事実の解釈である。過去を直視し、歴史的事実を確認することは、非常に大切なことである。ドイツの歴史家ランケは、「歴史は書き換えができない。その意味では、一つの神に通じる」という貴重な言葉を残している。一方、歴史的事実に対する解釈は、人や国によって多様である。しかし、歴史的事実は、特定の歴史家によって減らしたり、なくしたり、曲げられたりしてはならない。共同宣言以降日韓両国の関係は非常に良好であり、共同宣言で確認された歴史認識を原点に、未来に向かって進んでいきたいと考えている。
2年前、金大中大統領は日本の大衆文化の韓国公開に踏み切ったが、これは非常に難しい決断であった。当時韓国の世論の90%以上が文化交流に反対していた。文化産業や経済力では日本のほうが優れているため、韓国が日本の「文化植民地」になると心配されたからである。その頃大学で教鞭をとっていた私は、「文化交流は、相互に学習し合う、限りなき過程である(Endless Process of the Mutual Learning)」と定義づけ、若い学生たちに文化交流の正当性を説明した。
もし公開直後に総選挙が行われていたら、政府与党は惨敗したであろう。しかし、金大中大統領は、それを乗り越えて公開を続け、最近では日本映画の「Love Letter」が韓国で120万人以上の観客を動員する一方、韓国のアクション映画「シュリ」が日本で大ヒットするという非常によい兆候が出てきている。全面公開も時間の問題ではないかと思う。
私は、5年前から「Internetism(インターネット主義)」という言葉を使っている。日本で流行っている「IT革命」という言葉は絶対善の概念のように思えるが、「Internetism」は70%は肯定的な意味であっても、30%は危険な側面もあるという含みがある。Internetismのマイナス部分は「Human Face(人間の顔)」、「Identity(個性)」で補わなければならず、私は「人間の顔をしたInternetism」を標榜している。
自由貿易協定(FTA)に関する韓国の立場は、中長期的には望ましい方向だというものである。今年9月に金大中大統領と森総理は、中長期的課題としてFTAについて研究すべきだという意見で一致した。FTAを実現するためには、FTAに到達する前の環境づくりが非常に大事である。例えば航空便の問題があるが、人の往来の自由がないのに、FTAができることは不自然である。また、韓国と日本という特殊な関係を考えると、政府レベルだけではなく、国民レベルの信頼の深化が必要である。そうした経済的、経済外的な諸条件がある程度整えば、FTAは時間の問題だと思う。金大中大統領と森総理大臣の間では、日韓FTAビジネスフォーラムの設立が約束された。ここで、実務者レベルの対話を積み重ね、その結果によっては政府レベルで議論を進める予定である。

三つの意義をもつ南北首脳会談

南北首脳会談の第1の意義は、冷戦の終息のきっかけをつくったことである。韓半島(朝鮮半島)の冷戦は非常に悲惨なものであった。韓国人にとって冷戦は、民族と領土の分断であり、家族の別れであり、兄弟の戦いであり、まさに悪魔の言葉である。世界的な冷戦の終焉は韓国冷戦の終息なしにはありえないという問題意識が、金大中大統領にも金正日総書記にもあったはずである。
第2は、「自主」である。現代史において韓国は、自分の運命を自分で決めたことがなく、植民地化も占領も分断もすべて外から強いられたものであった。しかし、その解決はわれわれ自身の力でやろうという決意が、南北首脳会談で表明された。朝鮮半島の問題は、国際問題であると同時に民族問題であり、南北の当事者どうしの対話なしにはまともな解決はできないであろう。しかし、国際問題でもあるからこそ、日本や米国の協力、中国とロシアの理解が欠かせない。南北首脳会談は、日本と米国と韓国の協調なしには実現しなかっただろう。
第3は、「平和共存」の制度化である。金大中大統領がノーベル平和賞の受賞にあたり、「朝鮮半島の統一には20〜30年を要するだろう。無理な統一は共倒れにつながる可能性がある。破局を伴う無理な統一は、われわれの当面の目標ではない」と述べたように、平和共存で徐々に根を降ろそうとしている。

日朝国交正常化は歴史の流れ

日朝国交正常化は、多くの障害があるものの、歴史の流れであって、時間の問題だと確信している。朝鮮半島の平和と長い統一の過程において、日本の果たす役割は非常に大きく、朝鮮半島の南北7,000万人の人々が、日本の役割、特に経済的役割を心から願っている。これを、経済大国日本が自国のもつ経済力を政治力に切り換える絶好のチャンスと捉え、積極的に経済的貢献を果たすことを期待している。また、民主主義と市場経済を共有している日本と韓国が率先して中国を受け入れ、アジアのゴールデントライアングルをつくっていくことが大切である。


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