経団連くりっぷ No.138 (2000年12月28日)

第568回常任理事会/12月5日

予断を許さない北朝鮮をめぐる動き

−伊豆見 静岡県立大学教授よりきく


朝鮮半島分断以来初めて南北首脳会談が開催されるなど、今年は北朝鮮をめぐる国際関係に大きな変化が見られた。北朝鮮の今後の動向如何は北東アジアの安全保障環境にも大きな影響を及ぼすと考えられる。そこで、静岡県立大学の伊豆見 元教授より、北朝鮮をめぐる国際関係について説明をきいた。

○ 伊豆見教授説明要旨

  1. 南北関係
    1. 首脳会談の意味
      首脳会談では、「統一」を先送りすることで合意する一方、平和的共存関係の制度化の基礎を築いた。また、会談の開催は、北朝鮮が韓国からの経済支援を期待せざるを得ないほど経済的に切迫していることを示している。

    2. 首脳会談後の状況
      6月の首脳会談後、南北間においては、離散家族の再会、両国国防相の会談、来秋を目指した南北を結ぶ鉄道の再連結建設など対話交流が盛んになっている。しかし、韓国においては、それらは必ずしも高く評価されていない。
      他方、北朝鮮側には、首脳会談開催、対話交流と大きな譲歩を重ねたにもかかわらず、経済支援が実現していないとの不満がある。北朝鮮は、インフラ整備への本格的な支援を期待しているが、この半年間で韓国から与えられたのは30万トンの肥料と60万トンのコメだけである。韓国政府は、北朝鮮の変化が不十分なために経済支援に野党の理解を得られない状況にある。自国経済の翳りもあって、大規模な経済支援に対する世論の支持も減少している。

    3. 残された課題
      残された課題の第1は、軍事的緊張緩和に踏み切れるかどうか、朝鮮戦争に終止符を打つために平和条約を締結できるかどうかである。北朝鮮の軍事力の2/3が国境線に配備されている状況が変わらない限り、軍事的緊張緩和は訪れない。北朝鮮がそこまで踏み出せるかどうかがポイントになる。
      第2の課題は、北朝鮮への経済援助の実施である。軍事的緊張緩和が実現すれば、韓国としても本格的な経済援助を実施する段階になるが、経済危機再発の懸念がそれを不安視させている。仮に北朝鮮が緊張緩和措置を打ち出しても、経済援助は容易でないとの声が高まっている。そのような事態にでもなれば、北朝鮮からすると、何のための譲歩だったのかということになりかねない。因みに韓国にある1千万トンの余剰石炭は北朝鮮への支援に振り向けられると見られているが、未だ実施されていない。

  2. 米朝関係
    1. 共同コミュニケ
      10月に北朝鮮の趙明禄国防委員会第一副委員長が訪米し、米朝共同コミュニケが発表された。それをもって両国の「敵対関係に終止符が打たれた」との報道もあるが、コミュニケでは、互いを「敵視しない」としているだけであって、それが守られるか否かは今後次第である。朝鮮戦争の終結と平和協定の締結をめぐって、その必要性に関する認識は共有できたが、具体的な方法は合意されておらず、米国次期政権に先送りした形である。

    2. 核開発問題
      米国が重要問題と位置づける北朝鮮の核開発問題については、現在、関連施設が凍結されており、将来は開発を放棄するという流れにある。これまでのところ北朝鮮はこの合意を遵守しているが、朝鮮半島エネルギー機構(KEDO)側のコスト負担問題で日米韓三国の足並みが揃わず、プロジェクトの進行に障碍が生じるようなことになれば、核開発を凍結、放棄する理由はなくなると北朝鮮は判断する恐れがある。

    3. ミサイル問題
      米朝間の懸案にはミサイル問題もある。現在、北朝鮮は長距離ミサイルの発射試験を控えているが、ミサイル試射を止めたからといって、開発が遅れているとはいえない。北朝鮮はノドンミサイルの配備・輸出を行っている。また、輸出停止については、金銭補償を要求している。さらに、日本が射程内に入っている、すでに実戦配備されたノドンミサイルの除去問題も残ったままである。

    4. クリントン大統領訪朝の可能性
      以上のような状況ではあるが、年明け1月第1週にクリントン大統領が訪朝する可能性は残っている。訪朝が実現するための条件は2つある。第1の条件は、ブッシュ氏の次期大統領就任である。大接戦であっただけに、ゴア氏が大統領就任となれば、クリントン大統領の訪朝に共和党から激しい批判が集まるのは必至である。この第1の条件はどうやら整いそうである。第2の条件は、目に見える成果が訪朝前に担保されることである。北朝鮮は、ミサイル輸出停止について3年間計30億ドルの補償を求め、米国は拒否しているが、例えば、補償なしにミサイル輸出を停止する旨を金正日総書記自身が確約すれば、クリントン大統領訪朝が実現する可能性がある。この可能性は非常に少ないが、ゼロではない。

  3. 日朝関係
  4. 北朝鮮の対外姿勢に変化が見られる中で、日本だけは例外扱いであり、未だ「100年の宿敵」と呼ばれている。少なくとも現段階で日本に対する姿勢を変え、譲歩する必要はないと北朝鮮は判断している。その理由の一つは、日本の内政が不透明、不安定で取引できる段階にないと踏んでいることがある。

  5. 北朝鮮の今後
  6. 北朝鮮をめぐる事態の好転が来年も続くかどうか不明である。むしろ、これまでの流れが止まり、バックラッシュの可能性さえある。クリントン訪朝が実現すれば、金正日体制の正統性を高めることになるが、来春までに韓国の経済援助の実施など事態の進展が見られない場合、金正日体制が持ち堪えられるのかという問題にもなってこよう。最近の北朝鮮の変化の特徴は、金総書記が表舞台に登場して陣頭指揮にあたっていることである。いわば最後のカードを切った状態にあるが、それにもかかわらず、さしたる成果があがらない場合、国内の不満が募る可能性がある。


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