経団連くりっぷ No.139 (2001年1月11日)

IT革命フォーラム/12月15日

IT革命推進の戦略と課題


情報通信委員会では、政府のIT戦略会議(議長:出井ソニー会長兼CEO)がとりまとめた「IT基本戦略」の実現を推進する観点から、約500名の参加を得て、標記フォーラムを開催した。

  1. 岸 経団連副会長・情報通信委員長挨拶
  2. 景気回復の動きを本格化するには、一刻も早く経済社会のあらゆる分野でITを積極的に活用できる基盤を構築すべきだ。経団連では、情報通信サービスの需要サイドと供給サイドが相互に刺激し合う好循環をつくり出すため、電子政府の実現、電子商取引の環境整備、通信分野における自由で公正な競争の促進などを政府等関係方面に働きかけてきた。
    1月に発足する「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(新IT戦略本部)」の活動が、IT基本戦略の実現の鍵を握る。新本部で、「やりやすいもの」ではなく、「やるべきこと」を実現するアクションプランを制定することが期待される。経団連としては、民間の声を高めることによって、政治にリーダーシップを求めていく。

  3. 出井IT戦略会議議長講演
    「IT革命とわが国の基本戦略」
  4. 日本の電話と放送のネットワークは世界最高水準だが、インターネットは遅れている。日本のインターネット網は電話網の上に電話の料金体系を基本に運営されている。インターネットは常時接続が常識であり、料金は定額にすべきである。
    IT基本戦略は、「革命的現実論」である。NTTのあり方などの制度論から離れて、数値目標を5年先(1,000万世帯が光ファイバーを利用した30〜100Mbpsの超高速網を利用等)と1年先(全国民に極めて安価なインターネット常時接続を提供など)に設定した。5年先の目標は革命的で、一方、1年先は現実的なものを求めた。5年先の目標は、市場競争が働けば十分達成可能である。問題は市場競争を機能させることである。
    光ファイバーのネットワークを整備することに関して日米両国を比較すれば、はるかに日本の方が条件が良い。日本は国土が小さく、現在でも多くの光ファイバーが敷設されている。問題は、NTT、東京電力、県などの光ファイバーが、自由に使われてないことだ。このしばりを外すことをIT基本戦略で強調した。
    またIT基本戦略では、IPv6の積極的採用を提言した。IPv6では、あらゆるものがインターネットのアドレスを持つことになる。全ての製品にIPアドレスが付けられ、コミュニケーションを行うのが本当のインターネット時代だ。今日のインターネットの利用状況を10年後に見れば、プリミティブなものに映るだろう。
    IT時代の企業経営には、3つのポイントがある。第1は、ITを組織の変化と結び付け、業務のやり方そのものを変えることだ。第2は、ほとんどの企業が縦割りで運営している生産子会社などを、ITを使って横断的に運営することだ。全てが横(水平)になるわけではないが、今後の企業経営は垂直と水平の組み合わせになる。第3は、プライバシーを確保した上で顧客情報を有効に活用することである。

  5. パネルディスカッション
    「IT革命と日本の新生」
  6. 宮内オリックス会長兼グループCEO
    IT基本戦略のビジョンを実現するには、情報通信分野に本当の競争を入れねばならない。米国では、あらゆるものが競争の中で生まれ、社会の進歩につながっている。しかし、日本の場合は、行政の裁量が残っており、行政が指導力を発揮せねばならないと考え、民間もそれに従わねばならないと思っている。
    IT基本戦略の目指すものが実現されるなら、日本の新生は他の分野においても達成されるだろう。できなければanother lost decadeになる。IT基本戦略の実行には、政治のリーダーシップが必要だが、本当のポイントは、国民からの要求や支持であり、これを高めていかねばならない。

    安延スタンフォード大学スタンフォード日本センター研究部門所長
    電子政府については、仕事のやり方を変えないで今の業務をネットに乗せるだけは意味がない。行政改革、行政効率化とセットで電子政府化が行われ、国民へのサービスが向上しなければならない。政府が光ファイバーを敷設するとしても、公共事業の省庁別配分が固定的なままでは、効果的でない。配分見直しなど、原点に立ち返った議論が必要であり、これは政治主導でなければ進展しない。

    大山東京工業大学教授
    IT基本戦略は、これまで実証試験の段階であったものが、実施に移ることを意味している。IT基本戦略は、「2003年度には、電子情報を紙情報と同等に扱う行政を実現」としているが、行政に限らず、このような社会を実現すべきだ。

    村上情報通信委員会電子商取引推進に関するワーキンググループ座長・野村総研専務(モデレーター)
    日本企業は、国際的に「協調は上手いが競争が下手」と見られている。21世紀の日本企業は競争が上手くならねばならない。IT革命への取組みは、その道筋を与えるものだ。

  7. 額賀経済企画庁長官・IT担当大臣ご挨拶
  8. バブル崩壊後、日本は次の目標を定めることができなかった。この間に、ITで米国に20年も30年も遅れてしまった。しかし、日本は、国土が狭く、単一民族であり、一定の教育水準もある。規制緩和などによってIT革命が推進されれば、遠くない時期にキャッチアップし、新たな次元で経済競争が可能になる。
    IT革命を推進するためには、政治家や国民の意識改革が不可欠だ。20世紀の日本は、集団主義、護送船団式、官僚主義であった。しかし、21世紀に向けては、個人の創意工夫を大切にし、自己責任、市場ルールを基準とする社会に変えていかねばならない。規制や官の関与を取り払うことによって、自由闊達に経済活動をできる環境をつくりたい。経済界には自信を持って、日本の活力を取り戻す活動をしてほしい。
    日本経済は最悪の事態を脱出したが、自律的回復には至っていない。本格的回復のためには構造改革が必要であり、この先導役がIT革命だ。


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