経団連くりっぷ No.139 (2001年1月11日)

中東・北アフリカ地域委員会(委員長 藤澤義之氏)/12月8日

油価高騰に伴う中東産油国でのビジネスチャンスが拡大

−中近東地域駐在大使との懇談会を開催


中東・北アフリカ地域委員会では、外務省の中近東大使会議の開催に合わせて、同地域駐在大使との懇談会を開催してきた。本年も中近東駐在大使・公使、合計22名、ならびに外務省の榎 泰邦中近東アフリカ局長を招いて、中東和平問題や主要国情勢について外務省側から説明をきいた。

○ 外務省側説明要旨

  1. 榎局長
    −中近東大使会議の模様
  2. 今次大使会議の関心テーマは、次の3点であった。

    1. 中東和平
      パレスチナにおける9月末の衝突以来、和平プロセスの先行きに暗雲が垂れ込めている。紛争長期化により、アラファトPLO議長の指導力低下、紛争のゴラン高原や南レバノンへの拡大、ユダヤ教とイスラム教の宗教対立の激化といった懸念がある。日本はパレスチナ支援で大きな役割を果たす一方で、イスラエルとも友好関係を維持して来た。米新政権の中東和平政策は、現在のところ未知数であるが、日本としては、和平プロセスの推進において、今後とも積極的な役割を果たしていきたい。

    2. 原油価格高騰と湾岸外交
      原油価格高騰により、産油国財政が好転している。先般、アラビア石油のカフジ油田を視察したが、油田の自主開発路線を捨てることは、先進国として当然取り組むべき石油鉱業技術の発展・継承を断念する事態にも繋がりかねないとの想いを新たにした。油田開発の利権切れは、是非とも2003年1月のクウェイトで止めたい。今後とも、湾岸産油国との長期的な関係構築を目指して、外交活動を活発化していく予定である。

    3. ビジネスへの取組み
      昨今の原油価格高騰により、中東産油国におけるビジネスが活発化して来た。石油化学プラント建設等の大型案件に加え、電気・ガス・水道等のユーティリティー部門の民営化プロジェクトが推進されている。湾岸諸国では、外資誘致に積極的な姿勢を示しているので、日本政府としても、日本企業の進出を円滑化すべく、側面支援していきたい。

  3. 茂田駐イスラエル大使
  4. 今回の衝突によって、イスラエル、パレスチナ双方の信頼関係が失われたといえる。米現政権は、中東和平プロセスを積極的に推進してきたが、新政権の中東政策は未知数であり、紛争解決の見通しは楽観を許さない。双方共に問題を早期に解決したい意向であるが、国民感情を考慮すると、困難が予想される。エルサレム帰属問題と難民問題を除いた上で合意を図るのか、あるいは、あくまでも包括合意を目指すのかは、予断を許さない。いずれにせよ双方は、この地域で共存していくしか道はなく、問題の解決へ向けた新展開について、一縷の希望を持って注視していきたい。

  5. 渡邊駐アルジェリア大使
  6. アルジェリアは、イスラム原理主義体制から脱却後、政治体制を再構築し、民主主義体制を確立した。今般、7年振りに来訪した、日本の経済界による訪アルジェリア・ミッションは、大きな成果を収めたと思う。国営企業の清算と民営化を進める中で、アルジェリアの最大の関心事は、外国からの投資誘致であり、石油・ガス開発分野以外での協力を強く望んでいる。一時悪化した治安状況が、都市部を中心に改善する中、日本企業も徐々に戻って来ており、その数は、今後も増加するものと期待している。

  7. 竹中駐トルコ大使
  8. G20加盟国であるトルコは、IMF主導により、経済が抱える諸問題を克服しつつある。安定したエジェビット政権の下、経済改革プログラムを実行した結果、インフレ率は低下し、経済成長はプラスに転じた。国営企業の民営化においても着実な成果を挙げている。
    こうした中、11月中旬にミニ通貨危機ともいえる金融不安に見舞われたが、IMFによる総額104億ドルの緊急融資によって問題は漸次収束しつつある。今後は、インフレを防止すべく、IMFの緊急融資で市場へ放出された資金をいかに吸収するか、また、IMFとの合意に基づく賃金抑制等の政策の進捗にも注目したい。なお、EU加盟へ向けた交渉は、進展している。

  9. 孫崎駐イラン大使
  10. 先般のハタミ・イラン大統領の訪日の成果について、イラン側は最高の評価を与えていた。日本は、最近アザデガン油田の開発に関する独占交渉権を得るなど、両国関係は極めて良好である。イランにおける、あるアンケート調査では、日本が、サミット参加国の中で最も信頼のおける国に挙げられた。イランは、6,000万人強の市場を有し、各種工業も発達し、インフラも整備されている。わが国政府は、中長期貿易保険を付保するなど、対イラン政策も変化して来ており、日本企業にとって、今こそがイラン進出のチャンスである。経済界の主導によって、両国関係の今後のあり方、ないし方向性を打ち出してほしい。

  11. 大島駐サウジアラビア大使
  12. 健康上の問題を抱えるファハド国王に代わって、アブドラ皇太子が実質的に政務を司っている。中東和平問題では、イスラムの盟主として、アラブ諸国の反イスラエル感情の高揚を抑える一方で、安全保障の観点から米国との関係にも十分配慮している。国内では、若年層の人口急増による失業者の増大が内政問題化する懸念を抱えており、解決策として外国からの直接投資を誘致すべく、WTO加盟交渉や投資法の整備を着々と進めている。油価高騰による財政黒字は、累積負債の返還に充てるなど、堅実な財政運営を行っている。
    なお、明年3月に、サウジ総合投資機構のアブドラ殿下が、日本企業の対サ投資促進を目的として来日する予定である。


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