経団連くりっぷ No.140 (2001年1月25日)

在中南米諸国大使との懇談会(司会 槙原 稔氏)/12月15日

中南米に見るグローバル化の光と陰


中南米諸国大使会議に出席するため一時帰国中の駐中南米諸国大使および外務省の堀村隆彦中南米局長(当時)を招き、中南米各国の情勢を中心に説明をきくとともに懇談した。各大使の報告では、中南米諸国は政治の民主化が行き渡り、マクロ経済が安定的成長を遂げる一方、貧富の格差や失業、治安など社会面の問題が残る点が指摘され、グローバル化の光と陰が浮き彫りにされた。堀村局長は、中南米におけるわが国企業の投資環境整備の観点から、投資協定・自由貿易協定の推進に前向きに取り組みたいと述べた。

○ 堀村局長および各大使報告要旨

  1. 堀村中南米局長(当時)
  2. 全般的にマクロ経済は安定しているが、ミクロ経済に問題のある国が多い。政治面では民主化が行き渡り、民主化の内実が問われる段階に入った。南米南部共同市場(メルコスール)、南米自由貿易圏、米州自由貿易地域(FTAA)など、地域経済統合が活発な動きを見せている。
    わが国としては、

    1. 投資環境整備の観点からの投資協定・自由貿易協定締結の促進、
    2. ODA等による長期的安定化の確保への支援、
    3. 重要資源の安定供給の視点からの中南米地域の見直し、
    4. 物流の促進、
    5. 相互理解の促進、
    を重点事項として、対中南米外交に取り組む所存である。

  3. 木島 駐アルゼンチン大使
  4. 大豆価格の下落、牛肉の口蹄疫問題、米国金利の度重なる引き上げなど悪条件が重なったこともあり、財政赤字、対外債務が拡大し、失業率が上昇している。しかし来年は諸条件の好転が予想されるので、デフォルトの可能性はあまりないだろう。
    地方財政の抑制、徴税の強化などの現政権の施策が奏効すれば、単年度の財政赤字は2、3年で解消できると思われる。

  5. 成田 駐チリ大使
  6. ラゴス新政権は基本的に従来の政策を継承している。今後、安定した経済成長を続けるためには、社会・教育改革、経済構造改革、労働市場改革などが課題である。
    メルコスールへの正式加盟を申請する一方、米国との自由貿易協定を2001年半ばまでに締結すべく交渉を開始した。日本に対しては、IT関連での支援と日智自由貿易協定の早期締結を要請している。

  7. 鈴木 駐ブラジル大使
  8. 1999年はじめの通貨危機を克服し、IMFから経済パフォーマンスはほぼ満点と評価されるまでに回復した。貿易収支赤字が問題であるが、2年連続300億ドルに達する外国直接投資がこれをカバーしている。
    日伯関係は万事右肩下がりであるが、経団連とブラジル全国工業連盟が「21世紀に向けた日伯同盟」構築のための共同報告書を発表し、11月に第9回日本ブラジル経済合同委員会を開催したことで、関係強化に向けた再出発のベースが整った。

  9. 木谷 駐ペルー大使
  10. 2000年春から秋にかけて政局が激動したが、11月19日のフジモリ大統領辞任表明により、フジモリ派対反フジモリ派の二極分立の構図は消えた。2001年4月8日の大統領選挙に向けて粛々と準備が進められよう。
    日系人、日本人に対する反発が、大使館への嫌がらせ電話や小規模デモの形で表れている。治安当局と緊密に連絡をとり、対応に万全を期す所存である。

  11. 国安 駐ベネズエラ大使
  12. 1999年2月のチャベス大統領就任以来、憲法改正や大統領選挙など、選挙と国民投票が繰り返されているが、2000年12月の国民投票では棄権率が90%に達するなど、国民の政治に対する期待の低さが示されている。
    日本とベネズエラとの関係は、石油関連が中心とならざるを得ない。日本が石油輸入の90%を中東に依存しているのは行き過ぎである。重要な産油国であるベネズエラから、日本企業が採算の取れる形で石油を輸入できるよう、政府も努力していきたい。

  13. 鹿野 駐コロンビア大使
  14. ゲリラとの和平交渉は、二歩前進一歩後退の状況である。麻薬対策については、米国からの大型援助が実施段階に入りつつあり、今後1〜3ヵ月の成果が注目される。
    経済成長率は3%まで回復したが、20%の失業率を解決するには至っていない。国際機関からの借入を公共事業や補助金に充てているが、今ひとつ成長に弾みがつかない。

  15. 藤島 駐パナマ大使
  16. 1999年末にパナマ運河が全面返還された後、運河の運営・管理は順調である。米軍の撤退に伴い、安全保障基本法が制定され、沿岸警備隊も整備された。経済は米軍撤退の影響を受け、3%程度減速する見込みである。
    パナマ政府は港の整備、観光振興、空軍基地跡を利用した物流基地開発などに取り組んでおり、運河の拡張計画と併せて日本企業の参加を期待している。

  17. 馬渕 駐キューバ大使
  18. キューバの魅力は、観光資源、鉱物資源など豊富な資源である。カストロ政権の教育重視のおかげで識字率は中南米一を誇るなど人的資源にも恵まれており、治安の良さも中南米随一である。大国アメリカへの近さも見逃せない。
    最近、キューバは日本を最重点国のひとつとする意思決定を行った。国営企業の生産性向上に、日本企業の経験を活かして知的協力を行うことも可能であろう。

  19. 田中 駐メキシコ大使
  20. セディージョ前政権はテキーラ・ショックで壊滅状態にあった経済を回復させ、貿易額を倍増させた。選挙の透明化にも努めたが、その結果、野党に政権を譲ることとなった。フォックス新政権に対する国民の期待は高いが、腐敗防止、所得格差是正、治安改善など、課題は難問ばかりである。
    対日関係は従来と同様、経済関係を中心に緊密化を図ることとなろう。大統領は日本との自由貿易協定を締結したいと明言しており、早期訪日を希望している。

  21. 安藤 在米大公使
  22. 選択的な色彩が強まるブッシュ政権の外交政策のなかで、中南米のプライオリティは高い。クリントン政権と同様、民主化の促進、経済自由化の促進、麻薬・テロ・資金洗浄などの犯罪に対する取組みへの支援が対中南米政策の柱となろう。
    ブッシュ大統領は米州自由貿易地域の実現に向けファスト・トラックの早期取得を目指すとしており、成功すればプロセスが加速する可能性がある。


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