経団連くりっぷ No.140 (2001年1月25日)

貿易投資委員会 総合政策部会(部会長 團野廣一氏)/12月25日

わが国通商政策と地域経済統合

−慶應義塾大学 木村教授よりきく


わが国の通商政策のあり方、地域経済統合の意義と問題点、日本とアジア諸国との自由貿易協定をめぐる諸問題などを中心に、慶應義塾大学の木村福成教授より説明をきいた。

○ 木村教授説明要旨

  1. 戦略的発想の必要性
  2. 米国の通商政策は、一方的措置、二国間交渉、地域主義、多国間交渉の4形態を使い分けている。例えば、スーパー301条による制裁は一方的措置であり、日米構造協議は二国間交渉であり、北米自由貿易協定(NAFTA)は地域主義である。これに対し、わが国は、WTOに代表される多国間交渉を通商政策の「憲法」と位置付け、その他の形態の利用は消極的であった。
    WTO新ラウンドが立ち上がらない中で、最近、自由化を地域レベルで進めるという地域主義が注目されている。自由貿易協定締結に向けた話し合いが頻繁に行われており、米州自由貿易地域圏(FTAA)の創設も急速に進む可能性がある。自由貿易協定では、モノの貿易のみならず、サービス貿易や投資の自由化が含まれるケースが多い。
    わが国も、アセアン+3(日、韓、中)あるいは東アジア+オセアニアで団結して自由貿易協定構想を展開していくといった、戦略的発想が必要である。GATT上は自由貿易協定の調印後10年間で、貿易の自由化を達成することとなっている。そこで、2015年の世界の国際通商体制の姿を念頭に置き、地域主義導入の必要性を検討すべきである。
    なお、自由化や規制緩和に時間がかかるセクターがあったとしても、産業調整のため10年間の猶予が与えられている。例えば、2015年を見据えた改革すら行わないということを正当化することは難しいのではないか。

  3. 地域主義の意義
  4. 自由貿易協定に代表される地域主義は、域外国の経済的不利益を完全に回避できるものではない。一方で、GATT、WTOも決して万能ではない。関税引き下げによって世界の経済厚生が拡大することは経済学上証明されている。しかし、WTOの交渉では、政治的理由から、なるべく自国の貿易を自由化せず、相手国からできるだけ譲歩を引き出すという駆け引きが行われている。こうした政治的問題を乗り越えて、自由貿易体制を確立していくためには、特定地域において少数の国でルールづくりをしていくことが有効である。多国間交渉の場合、最大公約数的なルールしか作れない恐れがある。
    また、地域主義はGATT、GATSの対象外の分野についてもルールづくりをできるというメリットがある。地域主義を単にWTOとの整合性の観点から捉えるのではなく、多国間主義を補完するものとして積極的に捉えるべきである。


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