経団連くりっぷ No.141 (2001年2月8日)

なびげーたー

バランスの取れた温暖化対策が重要

参与 太田 元


COP6再開の見通しは不明だが、6%削減目標のための国内対策議論の活発化が予想される。国益とのバランスをいかに確保するかが鍵である。

京都(COP3)では先進国に削減目標を義務化したが、ハーグ(COP6)では森林等によるCO2の吸収源(シンク)、海外における排出削減努力の活用などのルールを決めることはできなかった。

そもそも、温暖化問題は一種の通商問題というべき性格を持つ。その対応いかんによっては各国の競争力、雇用、さらに国民生活は大きな影響を受ける。ワシントン軍縮会議を思い起こさせるという指摘もある。事実、各国の削減目標(対1990年比)は、その国の事情、いわば国益を勘案して決められた。ちなみに、ポルトガルの27%増からルクセンブルグの28%減まで幅広く、その間に、豪州の8%増、ロシアの0%、日、米、EUの6%、7%、8%減がある。わが国は、石油ショックを契機に1990年代までに相当高いエネルギー効率を達成しており、ほかの国々に比して厳しい目標である。日本国内におけるCO2削減コストは先進各国のそれより高く、その分、国民の負担は大きい。

このため、政府は、燃料転換の余地が大きいEUやシンクを活用できる米国などの事情に目を配りつつ、経済的に大きなダメージを蒙らないよう交渉に臨むことが求められている。京都メカニズムの活用にしても、自由度と柔軟性が確保される必要がある。国内で温暖化対策を進めるのは当然だが、開発途上国の省エネ等を支援する「クリーン開発メカニズム」も地球の温暖化防止に有効である。対象プロジェクトも利用促進の観点から制限は最小限にすべきである。世界的にみて削減コストの低いところで削減するのが合理的である。

一方、わが国の温室効果ガスは1998年度時点で1990年度比約5%増であり、目標達成に向けて新たな国内対策として、環境税や国内排出取引制度についての議論が強まることが予想されるが、エネルギー多消費産業の国際競争力の低下、経済統制の懸念から慎重な検討が必要である。民生・運輸部門の伸びが著しい点については、1998年の温暖化対策推進大綱に基づく施策の実行こそ重要である。かかる観点から、経団連は、政府に責任ある実行と評価体制の整備を求めている。

経団連は2010年度の排出量を1990年度レベル以下に抑制する計画に沿って取り組んでおり、1999年度の産業のCO2排出実績は、1990年度比0.1%減少と、成果をあげつつある。経団連自主行動計画は評価を受けているものの、目標未達成の場合の責任のとり方などについて懸念が表明されている。政府との協定に切替えるといった強制的な仕組みを押付けられないためには、計画に沿った着実な実行が欠かせない。温暖化防止は、緊急かつ着実に取り組むべき課題であり、2012年以降はさらに大幅な削減を義務付けられる可能性もある。先駆的な努力は報われることも確かであろう。


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