経団連くりっぷ No.141 (2001年2月8日)

英国政府のeビジネスへの取組みに関するセミナー(司会 岸 情報通信委員長)/1月19日

2002年までに英国を世界で最も電子商取引に適した国にする


来日中の英国貿易産業省のパトリシア・ヒューイット中小企業・電子商取引担当大臣を招いて、ITおよびeビジネスの動向と英国政府の取組みについて懇談した。

○ ヒューイット大臣発言要旨

  1. 市場の将来性
  2. 製造業は衰退し、ドットコム企業のみに将来があるという考え方は間違っている。電子ネットワークは、経済のあらゆる分野の、あらゆる製品やプロセスを変化させている。高価で使い勝手の悪いパソコンを利用したインターネットアクセスの時代では、米国が世界をリードしていた。しかし、ここへ来て、誰もが簡単に安くインターネットを活用できる、第2世代のインターネット時代が到来している。ここでは、モバイル技術やデジタルテレビ技術に強い日本と欧州、とりわけ英国が市場を引っ張るとみている。

  3. 世界の中の英国と日本の位置付け
  4. モバイル・インターネットおよびモバイルコマースでは、日本と英国が世界をリードしている。日本および欧州が共通に採用したW−CDMAと呼ばれる第3世代のデジタル移動通信方式は、将来を見据えた政府と民間事業者との強力なパートナーシップの産物である。英国も1998年にW−CDMA方式を採用することを決めている。
    一方、欧州と日本が異なる方式のデジタルテレビを開発したのは、誠に残念である。次世代のマルチメディア放送方式の開発には、欧州も日本も世界市場に向けて、共に協力していくことが大事だと考えている。

  5. 英国の戦略
  6. 英国ブレア首相は昨年9月、2002年までに英国を世界で最も電子商取引に適した国にすることを目標に掲げた、UKオンラインを発表した。これを達成するため3つの政策を打ち出した。

    1. 先進的な市場づくり
      英国は、世界で最も早く通信事業を民営化した国の一つである。また、あらゆる政治的圧力からも影響を受けない独立した規制当局によって、消費者に質の高い、安価な通信サービスを提供することに成功した。OECDの資料によれば、英国のオフピーク時におけるインターネット接続費用の一般回線利用コストは、世界でも最も低い水準にある。この結果、インターネットにアクセスする英国の家庭は、2年前の3倍の800万世帯に達している。
      現在、われわれが成し遂げなければならない最も大きな課題は、予測できないほど急速に進展する市場に対応した法整備を行うことにほかならない。既存の法制度は、既存の通信、放送、コンピュータの枠組みの中で形成されている。しかし、これらの市場は急速に融合しつつあるため、英国は、3つの既存放送規制当局とOFTEL(英国電気通信庁)の業務を引き継ぐOFCOM(英国通信庁)の計画を策定した。

    2. 技能と自信を備えた人材
      低所得者層や遠隔地に住む人々まで知識主導型の経済を創出するため、幅広くインターネットの普及を図っている。現在600ヵ所あるUKオンラインセンターは、2002年末までに、全公立図書館と公民館、サッカー場、パブ等に設置することによって6,000ヵ所に増やす予定である。教育関連では、中学校の98%、小学校の86%がインターネットに接続できる。また、就労者の技能水準向上を支援するため、家庭、職場や全国の学習センターにインターネットを通じて学習教材をオンラインで配信するサービスも始めた。

    3. 新技術を駆使するオンライン政府
      UKオンライン達成のための最大の課題は、政府そのもののオンライン化である。技術的な問題はほんの一面であり、他の巨大組織と同様、相互の連携のないシステムや複雑な決裁権限を持つ縦割り組織との戦いが必要になる。英国の電子政府戦略は、あらゆる政府サービスを2005年までにオンライン化することを目標にしており、すでに33%を達成している。また、各省庁およびその下部組織に対し、それぞれの電子政府戦略を策定するように指示している。さらに、先進的な民間部門との協力関係も確立している。

  7. UKオンラインに対する実績の評価
  8. 国際基準の調査結果において、ICT(情報通信技術)およびeコマースの一般利用の面では、英国は世界の主要産業国の中で上位の位置にある。しかし反面、中小企業、特に従業員数が10名以下の零細企業においてeコマースの利用率が欧州平均を下回っている。このため、今後、零細企業の間でeコマースの活用が広がるよう、集中的に政策を論じていく。

  9. 国際的な課題
  10. eコマースの恩恵を最大限に受けるためには、グローバルフレームワークの確立が重要である。第3世代のデジタル移動通信方式の標準規格化は、日英両国が協力できる一例である。今後両国が密接に協力できる分野として、消費者からの信頼獲得に向けた活動がある。両国には独自のトラストマークが存在しているものの、国際的認知や外国との相互補完に欠けている。1999年のOECDの調査によれば、世界的に少なくとも100を越す規格が存在する。政府に期待される役割は、異なる規格を相互利用できるように統一し支援することであろう。また、両国が税制、プライバシー、データ保護、知的財産の分野において国際的枠組みの概要に協力することができれば、さらに大きな効果が期待できるだろう。
    本日、電子商分野における一連の課題に関して、日本政府との協働枠組みを設置する共同声明に合意できたことを、大変喜ばしく思う。この声明で、英日両国は、今後、単に両国間の問題に留まらず、国際的な電子商取引をも視野に入れて、緊密な協動関係を築いていくことに合意した。


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