経団連くりっぷ No.142 (2001年2月22日)

第569回常任理事会/2月6日

活力ある市場構築に向けて

−新たな転換期を迎えるわが国証券市場


証券市場の活性化には、企業業績の改善と構造改革の推進によって内外投資家からの信認を取り戻すとともに、市場インフラを整備する必要がある。そこで、東京証券取引所の土田正顕理事長より、活力ある市場構築に向けた取組み等について説明をきいた。

○ 土田理事長説明要旨

情報技術の飛躍的発展を背景に証券市場間の競争と協調が活発に展開される。また、企業の資金調達は間接金融から直接金融、市場型間接金融へ移行していく。このような動きを踏まえ、活力ある市場の構築に向け改革を進めていく。

  1. 証券市場をめぐる現在の情勢
    1. 株式市況は、昨春以降、軟調である(昨年一年間でTOPIXは25.5%下落)。他方、業種・銘柄毎に見ると、上昇・下降双方の動きが拮抗している。現在も米国景気の減速や企業間持ち合いの解消の影響で市況は軟調であり、実体経済への影響が懸念されている。こうした状況への対策については、当面の市場活性化を念頭に置きつつ、中長期的・構造改革的視点に立って検討が進められることを期待する。

    2. 株価低迷が関心を集めている背景には、株式市場の経済における重要性の高まりがある。時価会計の導入などに伴い、株価の変動が企業の財務・決算に影響を与え、その結果、経済全体に増幅効果を及ぼすようになっている。従来、株価は経済のバロメーターと言われてきたが、今やセンサーとしての意味合いを持つようになった。

    3. 証券市場における外国人投資家のプレゼンスが高まっている(昨年の東証市場第一部の売買代金に占めるシェアは32.5%)。一方、ニューヨーク証券取引所への日本企業の上場の動きも見られる。グローバル化が進む中で、わが国市場には海外から厳しい目が注がれており、市場のルールをグローバル・スタンダードに適ったものにするとともに、経済構造を批判に耐え得るものに転換する必要がある。
      外国人投資家の動向に大きな影響を受けないようにするには、多様な投資判断によって株価が形成されるような市場を構築する必要がある。個人投資家のみならず投資信託や年金等の市場型機関投資家を惹きつけるための法制・税制面の整備が必要である。株式分割時等の純資産額規制撤廃など商法の早期改正が待たれる。また、投資対象を魅力的なものにするため、市場を意識した企業経営が求められる。

  2. 東証の当面の課題
    1. 取引・決済インフラの整備
      5月を目途にDVP決済(Delivery Versus Payment:資金・証券の同時または同日中の引渡し)を導入する予定である。また、ペーパレス化を進めるとともに、STP化(Straight Through Processing)により人手を介さない取引の実現に努力する。さらに、決済リスクの一層の低減に向けてT+1(約定日の翌日決済)の検討に着手する。これらに合わせてシステムの構築を計画的に進める。

    2. 多様かつ魅力ある投資対象の提供
      良質な企業の上場を促進する必要がある。また、マザーズを基幹市場として育成する。金融機関によるリスクテイクに限界がある中で市場を通じた資金調達を可能にするマザーズの意義は大きい。反社会的勢力を確実に排除し信頼性を維持する。さらに、上場商品の多様化の一環として、3月を目途に不動産投資信託市場を創設する。米国で取引が伸びている株価指数関連商品ETF(Exchange-Traded Funds)にも注目している。

    3. 市場の公正性・信頼性の向上
      マーケットの選別志向が強まる中、わが国を代表する市場としての質が問われており、選別に耐え得る活動を展開していく。

    4. グローバル市場としての機能強化
      真のグローバル市場としての機能を強化するため、海外取引所等との横の連携を図るとともに、アジアのセンターたるべく、対外活動を積極的に展開する。

    5. 組織的基盤の強化
      組織的基盤を強化するため、特別委員会を設置して株式会社化の検討を進めている。会員の意見を集約する段階に来ており、正念場を迎えている。

  3. 企業へのお願い
    1. 投資対象の魅力を高めるため、ROE向上など株式価値重視の企業経営をお願いしたい(昨年末のROEは、米国企業17.4%、日本企業3.4%)。また、自己株式消却は資本効率の改善に有効な手段であり(一昨年は250社、昨年は337社が実施)、積極的に検討いただきたい。

    2. 東証は、一昨年3月に上場会社を対象にコーポレート・ガバナンスの充実を要請するとともに、各社の取組み状況や今後の計画について開示をお願いした。昨年9月のアンケート調査結果によれば、回答企業の多くがコーポレート・ガバナンスに関心を有し、ディスクロージャーの重要性を認識している。引き続きコーポレート・ガバナンスを重視した企業経営をお願いしたい。

    3. 直接金融・市場型間接金融の確立および自己責任を前提とした市場メカニズムの貫徹には、投資家への十分な情報提供が不可欠である。連結中心のディスクロージャー、退職給付会計の導入、金融商品への時価評価の導入等が進む中で情報開示の一層の充実が求められる。一昨年9月には、それまでのタイムリー・ディスクロージャーに関する要請を規則化した。また、コンピュータを通じた適時開示を行っており、この機能向上に努めている。さらに、来る6月には有価証券報告書等について電子開示が予定されている。株主へのアカウンタビリティおよびIRの重要性を十分認識し対応いただきたい。

    4. 昨年は、3月期の連結決算発表会社の16.2%にあたる243社が連結決算を5月26日に発表した。5月第4週に発表した会社は連結決算発表会社全体の46.8%に上る。また、連単同時に発表した会社は1,231社で全体の82.0%となっている。投資家に対する十分な情報を提供するため、決算発表の早期化・分散化をお願いしたい。昨年は、3月期決算会社の88%強の株主総会が6月29日に集中した。株主重視の観点から、日時の分散化を引き続きお願いしたい。


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