経団連くりっぷ No.142 (2001年2月22日)

貿易投資委員会 総合政策部会(部会長 團野廣一氏)/2月6日

農政改革は不可避な流れ

−東京大学 生源寺教授よりきく


わが国がWTO交渉や自由貿易協定交渉を進めていく上で、国際競争力の弱い国内産業の競争力強化策や保護策が、重要な検討課題となる。そこで、東京大学の生源寺眞一教授より、わが国農業政策の現状と課題について説明をきいた。

○ 生源寺教授説明要旨

  1. 農政改革の流れ
  2. WTOの農業交渉を視野に入れ、農業基本法が1999年に約40年ぶりに改正される等、さまざまな農政改革が進んでいる。特に、部分的に株式会社形態の農業生産法人を認めるべく農地法が改正されたほか、農協についても改革の方向性が検討会報告で示された。

  3. 食料自給率目標設定の問題点
  4. 昨年3月の食料・農業・農村基本計画において、カロリーベースの食料自給率を現在の40%から2010年に45%にまで引き上げるという目標が設定された。
    これを受けて、政府は、コメからの転作奨励金等により、現在、カロリーが比較的高く自給率の非常に低い、麦・大豆・飼料の自給率引上げを目指している。
    しかし、日本の農業が得意としない分野に注力するスタンスは、農業経営者の活力を引き出すという観点からは疑問が残る。むしろ、金額ベースの自給率に注目し、大きな所得を生み出す魅力ある農業ビジネスへの活力を引き出すことが重要である。

  5. 価格政策からの転換の意義
  6. 政府は、農産物市場への市場原理の導入を目指して、コメ、麦、大豆、牛乳・乳製品に対する価格政策の見直しを進めている。政府が価格を決定するという政策からの転換は、

    1. 需要者のニーズに応えるような農業生産性の向上、
    2. WTO交渉における国内保護水準および関税の引下げ要求への対応、
    3. 自給率の引上げ、
    等の意義がある。
    生産者と外食産業等の消費者の直接取引に見られるように市場構造も変化しており、従来型の制度への後戻りはないだろう。

  7. 米価の下落と直接所得補償
    1. 数年にわたる豊作、
    2. 生産調整の難航、
    3. 流通ルートの多様化による消費者からの価格引下げ圧力の高まり、
    等によって、コメの価格が急激に低下している。
    こうした中、価格は市場に決定を委ね、農業所得の減少分を政府が直接補償してはどうかという議論がでている。これに類似した手法は、欧米でも既に導入されており、否定できない。
    こうした直接支払い制度をわが国も導入するのであれば、社会政策としてではなく、産業としての農業の活性化を図る制度とすべきである。また、支払い対象を専業農家に絞るなど、国民の理解が得られるようにする必要がある。農業の担い手を育成するとともに、消費者に利益が還元されるような良い循環をつくり出さなくてはならない。


くりっぷ No.142 目次日本語のホームページ