経団連くりっぷ No.143 (2001年3月8日)

IT革命と地域活性化シンポジウム/2月6日

沖縄県北部地域を中心に自立した地域振興づくりを考える


IT革命時代にふさわしい地域振興が求められているが、基地経済から脱却し、自立を目指す沖縄を事例に、約500名の参加を得て、標記シンポジウムを開催した。

  1. 講演要旨
    1. 若林勝三 前沖縄開発事務次官
      「IT革命と地域活性化について」
    2. ITは、沖縄のハンディである、本土との距離を一気に解消する。沖縄の美しい自然や多様な文化は、コンテンツ産業の発展の基盤となりうる。
      金融はIT活用型で、環境にやさしいビジネスである。沖縄県北部地域にも金融センター立地の可能性が十分ある。来年の春予定の沖縄振興関連新法では、金融センターの位置付けを考える必要がある。財政上支援、インフラ整備をどのように法律に組み込むか、担当部局で研究が行われている。

    3. 高良倉吉 琉球大学教授
      「歴史から見た沖縄振興の課題」
    4. 沖縄の歴史を振り返ると、14〜16世紀の「大交易時代」には、琉球王国は、中国を軸に、日本の本土、朝鮮、東南アジアと貿易や人材交流を行っていた。しかし、17世紀〜1870年代の「二大国仲介者時代」では、政治行政的に日本封建国家の強い規制下に組み込まれた。1879年〜1945年の「辺境時代」においては、琉球の王国体制は否定され、本土に編入され、琉球王国が培った、アジアとの交流経験や蓄積がご破算になった。1945年以降の「戦後体制時代」で沖縄県は本土と分離され、米国の統治下に置かれた。本土復帰後の沖縄振興策は、全国との格差是正を中心に行われてきた。
      今後東南アジアの視点をもちつつ、沖縄らしい将来を構築するのが必要である。この点、国際金融情報センター構想は優れている。

  2. パネルディスカッション(要旨)
    1. 「国際情報金融センター創設の意義」
    2. 眞榮城(マエシロ)守定 琉球大学教授:
      沖縄の所得水準は、全国平均の7割にすぎず、失業率は8%近い。しかし、格差是正型の振興策では、沖縄救済策しかない。沖縄を体質転換させる政策・仕組みが不可欠だ。また、沖縄を活用して、日本再生、アジアや世界の発展に取り組む視点が必要である。
      琉球王国時代の沖縄は、物の取引で栄えたが、21世紀には情報の取引が大事になる。その仕掛けが国際情報金融センターである。国内外の金融機関を沖縄に集め、沖縄経済発展の引き金にしたい。

      浜田宏一 内閣府経済社会総合研究所所長:
      沖縄は太平洋地域から中国、朝鮮半島への文化圏の入口として重要な地域である。そこに金融に関するショーウィンドーができ、高度金融技術が集積することにより日本のIT化の加速が期待される。市場は能率いい所に資金や資源を流す役割を担っているので税制面の支援は必ずしも必要ない。しかし、例外的に政府や地方公共団体が優遇措置を講ずる意味のあるケースがある。その典型が金融特区である。ここでは集積の利益が働くため、政府の援助が経済学的にも正当化できる。税率を下げると、当局は、税収が減ると反論するが、取引が活発になり税収は高まる。ただし、国際的な競争だから簡単ではない。

      大垣尚司 アクサニチダン生命保険専務:
      金融センターとしてニーズのある領域は、リスクを押さえるための再保険市場がある。日本企業は市場が近くにないため、他の先進諸国より不利な立場にある。
      また、企業の資金や為替リスクを集中管理する企業財務センターやコールセンター等のニーズもある。

      呉屋(ゴヤ)守將 自立型オキナワ経済発展機構社長:
      金融特区は、沖縄の自立型経済を目指す施策の一つである。ダブリンを調査したが、沖縄には沖縄なりの金融特区のあり方がありうる。沖縄の歴史を踏まえ、日本再生、アジアや世界のために何ができるのかという視点で、沖縄金融センターのあり方を考えたい。

      徳本穰 琉球大学助教授:
      昨年6月のOECDの報告書では、アイルランドの国際金融センターが潜在的に有害な税制上の優遇措置に該当すると指摘している。問題とされたのは、金融サービス等の活動から生じる所得に対し無税または低税率で課税され、優遇措置が国内市場から遮断されていたためだと推測される。したがって、わが国はこれらの要素に該当しない制度を考案すればいい。

    3. 「国際情報金融センター創設の課題」
    4. 眞榮城 教授:
      最大の課題は、立地企業にいかにインセンティブを与えられるかだ。税制の他に、通信コストの引下げもありうる。地元側は、進出企業や人の都市基盤整備や英語で教育する学校が必要になる。長期的には、金融業務がこなせる人材育成機関として、大学院大学が必要だ。沖縄には、米軍が5万人いる。彼らのためのインフラを多国籍企業向けに活用できる。また、米軍基地の軍事技術や軍事情報通信回線を民間利用できる仕組みが考えられれば、非常に大きなインフラになる。

      浜田所長:
      OECDの報告書は、税を集める人達だけで議論しているために一方的すぎる。OECDは、特区を設けていいかどうかを判断する性質の機関ではない。沖縄の金融特区の場合、税制面の支援がなくても、十分な集積の利益を発揮できるかが課題である。

      大垣専務:
      課題は、税制よりもコールセンター事業等に必要な通信費の低減、企業の人材教育、交通費負担の軽減である。また、早急にビジネスモデルの明確化を図るとともに、必要に応じて外部から専門家を招くなど、他の金融センターに対する競争力強化も必要がある。

      呉屋社長:
      2本立てで行われている金融特区に関する調査は4月から一本化できるといい。地元も含めた関係者が知恵を出し合い、日本経済再生につながる、胸を張った沖縄開発振興を進めていきたい。


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