経団連くりっぷ No.145 (2001年4月12日)

なびげーたー

国際経済交渉の新しい動き

常務理事 藤原勝博


わが国とシンガポールとの経済連携交渉がいよいよ本格化しつつある。この交渉は経済界の立場からみて、大変興味深い。

第1に、長年、多国間主義、WTO至上主義でやってきた日本がいわゆる二国間協定も並行して取り上げるという画期的な方向転換をし、まず最初に取り組んだケースがシンガポールだからである。

第2に、従来の二国間協定は関税引下げを中心とし、自由貿易協定(FTA)と呼ばれてきたが、今回は経済連携協定と途中から呼び方を変えた。なぜなら、従来、自由貿易協定の内容である関税、サービスの自由化、投資、規格の相互承認等に加え、金融、情報通信サービス等の分野における二国間協力も含まれるからである。

第3に、対象分野が幅広く、かつ専門的、技術的な項目が多いので、実際にビジネスをしている企業人の出番が多い。協定に何を入れ込むか、どんどん要望をだせと政府関係者から要望(?)を受けている。これに応じて、早い段階から経団連の中に本件に関するタスク・フォースをつくり、幅広く関係業界(駐シンガポール日系企業を含む)の声をきき、これを政府交渉チームに伝えてきた。さる3月には、日本政府がシンガポールに派遣したチームにタスク・フォースの座長と当会スタッフが同席参加した。

第4に、交渉のスピードが早い。ゴーチョクトン、小渕両首相が、本件の共同検討に合意したのが1999年の末。2000年3月には官民合同チームでの共同検討会がスタートし、秋には2001年に仕上げることが両国首脳間で合意された。今年7月には実質的交渉を終え、あとは条文づくりになるという。WTO交渉のペースになれた目には驚くべきスピードである。

以上のようにシンガポールとの協定交渉は今後の国際経済ルールづくりの一つのモデルとして、注目されるところ大である。また、二国間協定は、シンガポールの他、メキシコ、韓国についても官民で研究、検討が進んでいる。特にメキシコの場合は、会員企業の間から実利に直結するものとして要望が強い。海外諸国からも日本と二国間協定を結び、経済関係をより一層強化したいとの希望も出ている。

シンガポールは小さな都市国家である。日本に比べ人口で30分の1、GDP規模で50分の1。しかし、経済のグローバル化の中で経済競争のルールの調和、統合化は必然の方向であろう。ルール設定の上では経済規模の大小はそれ程、重要な要素ではない。

今回の交渉では、日本側政府交渉団のチームワーク、また民間業界との連携振りの良さが目立つ。内容はもとより、交渉の進め方でも、これが今後のさまざまな国際経済交渉のモデルになることを願っている。


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