経団連くりっぷ No.146 (2001年4月26日)

社会貢献担当者懇談会―社会基盤整備(共同座長 加藤種男氏)/3月28日

米国NPOセクターにおける調査・政策研究活動の現状


NPOが専門性・先駆性を活かして多様な社会問題へ対応するうえで、その活動をサポートする調査・政策研究活動の重要性が高まっている。そこで、米国のNPOセクターにおける調査・政策研究活動の現状について、アスペン研究所非営利セクター研究基金のアラン・アブランソン研究局長とOMBウオッチのギャリィ・バス事務局長より説明をきいた。

  1. アブランソン研究局長説明要旨
    1. アスペン研究所非営利研究基金の概要
    2. 指導者層のリーダーシップ能力の向上を目指して1950年にアスペン研究所が設置された。本部はワシントンD.C.で会議施設がコロラド州アスペンとメリーランド州ワイリバーにある。非営利セクター研究基金はNPOに関する調査研究の促進のために、フォード財団、カーネギー財団等からの資金協力を得て1991年に同研究所内に設置され、これまで300件の研究に対して総額700万ドルの助成を行ってきた。

    3. 何故NPOの研究を重視するのか
    4. 米国のGDPの7〜8%はNPO(非営利セクター)が占めると言われるが、米国においてもNPOは見えずらく、NPOについての理解は欠如している。例えば、米国人の多くはNPOの収入源は個人寄付によると信じているが、事実は違う。病院、大学を含むNPOの収入源の40%はサービス料によるし、30%は政府からの補助金、20%が寄付金で、10%がその他となっている。NPOに関して実態を捉えて、それに相応しい政策を立案することが重要であるが、そのような研究は十分に行われていない。

    5. NPOの社会における役割
    6. 全米のNPO、行政、企業のリーダー25〜30名からなるNPO戦略チームを設けて、NPOの直面する問題について議論をしてきている。
      第1回のテーマは「NPOの社会における役割」ということで3〜4回会合を行い、NPOは民主的な社会にとり必要不可欠な存在であると結論付けた。NPOは、

      1. 社会の必要とする財・サービスの提供、
      2. 市民による参加と主張、
      3. 米国の中核的価値観の促進、
      4. 市民同士の絆の助長、
      という、社会のニーズを満たす4つの能力を持つからである。

    7. NPOとアドボカシー
    8. 次のテーマは「NPOとアドボカシー(政策提案・主張)」で、結論として、NPOにとりアドボカシーは基本的活動であり、助長されるべきものとされた。それは、

      1. 市民が大切と思う問題を絞ることに役立つ、
      2. 政策立案者に知識・情報を提供する、
      3. 草の根の市民が政策過程に参加することを担保する、
      4. 政府の市民への説明責任を担保する、
      5. 民主的価値観の促進につながる、
      6. 社会の一員であるとの意識を育てる、
      からである。

    9. NPOと企業の関係
    10. 昨年11月に「NPOと企業の関係」で議論した。環境や貧困などの問題は一つのセクターだけで取り組むことは難しいとの認識からスタートした。そして新しい種類の協働が必要であり、その際に、企業活動を行うときに社会的価値観も加味して進めるという「企業市民」の考えが重要であるとされた。
      企業市民ということで企業とNPOの関係を考えると、

      1. 企業は単に金だけでなく知識や現物協力も行う、
      2. 社会貢献とビジネス戦略を結びつける新しい道を探る、
      3. 真業はNPOにこれまで以上に成果éã質の良いサービスを求める、
      4. コーズ・リレーテッド・マーケット(社会貢献事業協賛型)のスポンサーとしてさまざまな実験を行う、
      5. 新しい形での行政、NPOとのコミュニティー・パートナーシップの形成、
      が考える。そして、企業とNPOの関係強化のためには、
      1. NPOが過度に企業に依存しない、あるいはNPOの使命が企業側に引っ張られないなどリスク最小化の努力、
      2. 企業の社会貢献活動や地域社会との関係に関する情報提供の強化、
      3. 企業とNPOの対話の促進と新たなメカニズムの構築、
      4. 両者の関係を適切化する法令、
      などが必要である。

  2. バスOMBウオッチ事務局長説明要旨
    1. OMBウオッチとは何か
    2. OMBウオッチは政策研究とアドボカシーを行うNPOで、政府の説明責任と政策過程への市民参加を目的に1983年に設立された。連邦予算局(OMB)を監視することで政府予算や規制の動向、NPOのアドボカシーの権利保護活動、NPOの情報技術利用とインターネットを活用した情報発信を行っている。

    3. 米国における政府とNPOの関係
    4. 米国におけるNPOの役割は市民社会の本質的なもので、NPOと政府の関係は複雑である。

      1. サービス提供ではNPOと政府はパートナーであり、
      2. 政府に説明責任を求める、
      3. 市民保護の法令の必要性を主張し、
      4. 資金提供をもとめる、
      という変わった関係である。例えば、政府の経費削減でNPOへのサービス需要は増え、財団・企業への寄付要請圧力は強くなるが、景気が悪ければ資金は集まりにくい。しかし、経済情勢の悪いときほどNPOのサービスが期待され、アドボカシーが必要なのである。

    5. 政策研究とアドボカシー
    6. 政策研究には4つのタイプがある。

      1. 大学等での伝統的な研究方法による応用研究、
      2. 法律や規制を要約・分析して理解しやすい形で伝える政策分析、
      3. NPOに関する法律や規制がどのような影響をあたえるかの計量経済的手法や事例収集によるインパクト分析、
      4. 行動や政策立案につながるアクションリサーチ、
      であり、OMBウオッチは4.に重点をおいてアドボカシー活動を展開している。

    7. 日本のNPOセクターの拡大のために
    8. 日本でNPOがセクターとして力をつけるためには次に3つの分野への資源投入が重要である。

      1. NPOセクターの研究やアドボカシーを行う資金や組織つくりのためのインフラストラクチャー、
      2. NPOの持つ先端的なサービス分野、
      3. 新しい技術を活用できる能力増強、、
      である。


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