経団連くりっぷ No.147 (2001年5月10日)

なびげーたー

正念場を迎える地球環境問題

環境・技術本部長 高橋秀夫


米国が京都議定書からの離脱を表明してから、一ヵ月少しが経過した。その間、EU、日本などの各国政府が翻意を働きかけているが、米国の姿勢は硬い。地球環境問題をめぐっては、7月中旬のCOP6再開会合にかけて、いよいよ正念場を迎える。

地球温暖化対策については、1992年の地球サミットで気候変動枠組条約が定まり(発効は1994年)、1997年12月に京都で開催されたCOP3で、先進国に温室効果ガスの削減数値目標を定める京都議定書が採択されたことが始まりになっている。この議定書では、締約国のCO2相当の温室効果ガス排出量を2008年から2012年までの期間に、1990年の水準より少なくとも5%削減することを目的としており(第3条)、そのために先進国に、例えば日本は6%、EUは7%、米国は8%削減することを課していた。

そこで、経団連では1997年から自主行動計画を策定し、エネルギー起源のCO2排出量を0%に抑制するよう産業界の協力を得てきた。経団連のフォローアップ調査では、各業界の必死な努力により、1999年度の排出量が1990年度比で0.1%削減しており、順調に成果を出している。

京都議定書の問題の一つは、シンク(吸収源)やいわゆる京都メカニズム(排出量取引、CDM、共同実施)の具体的なあり方について、先進国間で合意が取れていなかったことである。そこで京都議定書の2002年発効を目指す各国が、昨年オランダのハーグでCOP6を開催し、長時間にわたり討議を行った。しかし、その結果は、報道されているように、日米露豪などのアンブレラグループ、EU、発展途上国がそれぞれ対立し、合意をみなかった。その積み残しになった問題解決のために、11月のCOP7の前に再開会合を7月にドイツのボンで開催しようというのが当初の考えであった。

ところが、今年1月に成立した米国のブッシュ政権は、共和党政権として、クリントン民主党政権とは一線を画していた。共和党政権が、クリントンのサインした京都議定書から離脱することは、政策のオプションとして当然考えられるものであった。しかし、全世界のCO2排出量の25%を占める米国抜きでの国際合意はあり得ない。日本は米国が参加しうる国際的な枠組みの構築に尽力するのが本筋である。

今回の米国の決定を契機に、温暖化への産業界の取組みが大きく変わるということはないだろう。産業界としては、CO2排出量を1990年度水準に固定化するよう今後とも努力を続けることが、地球温暖化を防止する王道であろう。しかし、京都議定書自体にも問題はある。6%という水準は合理的に説明がつくものなのか、1990年度と比較することが、各国のそれまでの省エネ努力から見て公平なものなのか、中国等のCO2の大量排出国に対する取扱いはどうするのかなど、さまざまな問題が提起されている。産業界としても、どういう国際交渉を進めることが多くの国民の理解と協力が得られるのか、真剣に考える時期に直面しているといえよう。


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