経団連くりっぷ No.147 (2001年5月10日)

アジア・大洋州地域委員会(共同委員長 立石信雄氏、茂木友三郎氏)/3月30日

「アジアにおける円の利用拡大について」を承認


アジア・大洋州地域委員会では、「アジアにおける円の利用拡大について」と題する提言の案を審議し、原案通り承認した。当日は、提言の審議に先立ち、東京大学社会科学研究所の末廣昭教授を招き、「日本の対アジア政策〜統合的政策ヴィジョンの必要性」について説明をきいた。

  1. 末廣教授説明要旨
  2. 日本の対アジア政策は、アジア通貨金融危機後に一層活発化している。しかし、統合的あるいは整合的ヴィジョンは、なかなか見えてこない。
    今回のアジア通貨金融危機は、流動性危機というものであり、これに対しては、地域レベルの通貨・金融安定化で対応した。加えて、金融制度あるいは企業経営の構造的弱さに対しては、金融制度改革あるいは企業再構築で対応しており、アメリカナイゼーションの道とも言える。さらに、実体経済に内在する限界に対しては、産業構造調整および中小企業育成で対応しており、日本の経験に学ぶ道と言える。最後に、市民社会の未成熟という問題もあるが、これに対しては、社会的セイフティネットの強化で対応しており、独自の社会変革の道と言える。
    こうした中で、タイをはじめとするアジア諸国は、様々な政策を打ち出しているが、これを支援する日本側も、明確なメッセージを打ち出す必要がある。

  3. 提言「アジアにおける円の利用・拡大について」の要旨
  4. アジアの通貨金融危機は、為替の安定がアジア諸国の経済発展にとって不可欠であることを示した。そうした中で、円の役割が改めて注目されている。
    現実には、運用・調達・交換面でのドルの優位性もあって、経済活動の実態に比して円の利用は進んでいない。しかし、わが国にとってはアジアにおける経済連携と地域協力の強化が重要であり、その前提として、改めて円の利用拡大に取り組む必要がある。
    具体的には,政府に対し、引き続き円の利用拡大のための環境整備を求めるとともに、企業が、経営サイドのより強いリーダーシップによって円の利用拡大に向けた見直しを進めることが重要である。
    また、官民による取組みとして、わが国における円建て国際市況商品市場の育成・支援や円建てBA(銀行引受手形)市場の再活性化なども重要である。日本シンガポール経済連携協定にも円の利用拡大に向けた協力策が盛り込まれるよう期待する。
    さらに、アジアにおける円の利用拡大を図るためには、アジア各国の官民の協力が不可欠である。したがって、円の利用拡大が為替の安定に資するものであり、わが国がアジア諸国との経済連携および地域協力の一環としてこれに取り組むことについて、アジア諸国の理解を得て、協力を求めることが重要である。


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