経団連くりっぷ No.147 (2001年5月10日)

ベンチャー企業の動向と課題に関する懇談会(司会 立花常務理事)/4月6日

ベンチャー企業と大企業との連携

−日本政策投資銀行 丹野新規事業部長よりきく


新産業・新事業委員会では、新産業・新事業創出、育成に取り組んでいるが、その一環としてベンチャ−企業の動向と課題に関する懇談会を開催し、日本政策投資銀行の丹野光明 新規事業部長より、ベンチャー企業の動向やベンチャー企業と大企業との連携等について説明をきくとともに懇談した。

  1. 丹野部長説明要旨
    1. ベンチャー企業を巡る動向
    2. 第3次ベンチャーブームが1994年頃から続いている。これまでのブームとは違い、政府、産業界、大学による集中的な支援策を背景に、永続的な社会運動としてベンチャーが定着しつつある。中でも、資金調達の環境が抜本的に改正され、1999年12月には東証のマザーズ、昨年6月には、ナスダックジャパンができた。しかし、昨年末から続いているネットバブルの崩壊に加え、株式市場の低迷により、ベンチャー企業の環境は厳しくなっているのも事実である。
      行政による支援策は整備されてきたものの、ベンチャーに乗り出す起業家は依然として少ない。しかし、金融機関の再編成や大企業のリストラに伴い、学生や若者の意識も変化しつつあり、ベンチャー企業の予備軍は着実に増加している。

    3. ベンチャー企業と大企業との連携
    4. ベンチャー企業と大企業との連携は、昔からその必要性が指摘されていたにもかかわらず、目にみえた形では進展していない。しかし、徐々に変化の兆しが出ている。
      例えば、今まで大企業は、中央研究所などにおいて、自前で技術や新規事業の開発研究を行ってきた。しかし、最近のように変化が激しく、先の読めない時代には、単独の事業シーズによる事業展開が難しくなっており、また大企業は機動性を欠く。したがって従来以上にベンチャー企業と連携し、その力を活かすことが重要になりつつある。
      さらに、大企業が経営資源の選択と集中を進める中で、整理する事業部門を独立させるとともに、社内に埋もれた技術を社内ベンチャーや社員のスピンアウトなどの方法で活用する動きも出てきている。社外で行われる事業であっても、良好な関係であればネットワーク的に活用でき、大企業にとってもメリットがある。

    5. 産学の連携
    6. 大企業では、研究、奨学寄付金、企業研究者の大学研究室への派遣などの方法によって、大学の技術を活用している。その場合、企業と大学の教授との接触は、個人レベルの関係に基づくケースが目立つ。
      しかし、今後、産学協同や企業への技術移転は、技術移転機関(TLO)等を通じて行われることが期待される。TLOの権利の還元が透明になる。
      また、国立大学教員等の株式会社役員就任が認められ、本年4月から、国立の研究所が独立行政法人化するため、論文中心の大学は、特許等を意識したものへと変わり、将来、アメリカのように大学発のベンチャー企業が増加することが望まれる。
      日本でこれまで、大企業とベンチャー企業の連携がうまくいかなかった理由として、ベンチャー企業の技術レベルが高くないことが指摘されている。しかし、大学発のベンチャー企業の増加によって、ベンチャー企業の技術レベルも向上し、大企業とベンチャー企業の連携の大きな軸になることが期待される。

  2. 懇談要旨
  3. 経団連側:
    株式市場の低迷によって、ベンチャー企業を取り巻く環境は非常に厳しくなっている。今のベンチャー支援策に欠けているのは、アントレプレヌールシップである。大学、大企業には、基本給は高くなくてもいいから、成功に応じたリターンを受けられる仕組みが必要だ。
    また、個人投資家の資金呼び込みを促すため、一般所得との通算損益を認めるベンチャー税制を創設すべきである。
    ベンチャー企業と大企業とのアライアンスについては、新しい技術を持ち込む方法として、個人のルートしかないのが大きな障害になっている。大企業は、ベンチャー企業を受け入れる門戸をさらに開放しなければ、ベンチャー企業とのアライアンスはうまくいかない。

    経団連側:
    大企業がベンチャー企業と技術提携しない理由の一つとして、大企業内の技術者の精神構造がある。大企業の技術者にベンチャー企業の開発した技術を紹介しても、自分たちでもできると言って、受け入れない悪い癖があるので、これを直す必要がある。
    丹野部長:
    ベンチャー企業が、技術力がないことを理由に、大企業に門前払いされる例は実際にある。ベンチャー企業の中には、製品を海外企業に採用してもらうことによって実績をつくるところもある。
    海外企業は、Made in Japan 製品について、ベンチャー企業と大手企業の間に日本人が考えるほど、技術的な差はないと見ている。

    経団連側:
    ベンチャー企業と大企業との連携が進まないのは、ベンチャーキャピタリストにも責任がある。本当のベンチャーキャピタリストは、ベンチャー企業の技術を理解する能力をもち、かつその技術を、どこの企業に持ち込めばいいのかがわかる人脈を築いていなければならない。証券系、銀行系ではなく、技術系のベンチャーキャピタリストが求められている。
    丹野部長:
    アメリカの場合、大学関係者や技術者レベルの高い人がベンチャー企業の社長になることが多い。日本においても、今後、大学関係者による起業が期待されている。彼らは、教え子が大企業におり、大企業と豊富な人脈を抱えるだけでなく、技術を理解している。

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