経団連くりっぷ No.148 (2001年5月24日)

経団連・アジア開発銀行(ADB)共催セミナー/4月20日

引き続き経済成長率の高いアジア地域


経団連では4月20日にアジア開発銀行(ADB)との共催で、アジア主要国の経済見通し、メコン河流域開発(GMS)の近況ならびに中央アジア諸国の経済の現状と将来展望に関するセミナーを開催した。当日は約90名が参加し、上島副会長の開会挨拶に引き続き、ミョン・ホー・シンADB西地域担当副総裁が挨拶した。その後、ADBの各専門家からそれぞれのテーマに従って説明があった。

  1. アジア主要国の経済見通し
    −アルヴィン・パナガリヤ 主任エコノミスト
    1. ADBは4月19日、「2001年アジア開発展望」を発表した。2000年のアジア経済は輸出の伸びなどにより、前半は好調であった。後半に入り、米国経済の減速による輸出減の影響も受けたが、アジア途上国全体では7.1%の成長を達成した。2001年は米国の需要減速やITブームの沈静化などにより、5.3%の成長に低下すると見込んでいる。2000年の実績と比較すると低いが、世界の中では依然として最も高い成長率である。なお、2002年には再び持ち直して、6%程度の成長になると予測している。

    2. アジア全体では高い成長率が見込まれるものの、地域によりかなりのばらつきがある。NIES(韓国、香港、台湾、シンガポール)は、2000年の8.4%の成長から、2001年には輸出の大幅な鈍化などで、特に韓国の成長が大幅に落ち込み、4.3%の成長に留まると見られる。
      中央アジア諸国については、ロシア経済の回復や原油価格の上昇により2000年は7.8%の成長を達成したが、2001年は輸出の伸び悩みで3.3%の成長に留まるだろう。
      中国は2000年〜2002年にかけて、7〜8%の高い経済成長率を維持するだろう。輸出依存度が低く、内需が強いため、米国経済の影響がそれほど大きくないこと、またWTO加盟によるプラス要因が見込まれることなどから、経済的には大きな問題のない国だといえる。
      東南アジア諸国は、内需が引き続き低迷し、公的債務も増加するため、2001年の成長率は4%に留まる見通しである。
      南アジアは門戸開放策に転じた成果が出ており、中国と並んで見通しは非常に明るい。インドはIT産業の台頭などで、2001〜2002年は6〜7%の成長が期待できる。

    3. 「2001年アジア開発展望」では、グローバリゼーションがアジアの途上国に与える影響についても考察している。アジア全体としては、グローバリゼーションが経済成長を拡大してきた。しかし、貧困層が打撃を受ける面もあり、この問題への対処や、短期の外国資本流入にいかに対応するかが今後の課題となろう。

  2. メコン河流域開発(GMS)プログラムの近況
    −多田羅 徹 プログラム西局第3課GMS担当室長
  3. GMSプログラムは、メコン河流域の5ヵ国と1地域(カンボジア、ラオス、ミャンマー、タイ、ベトナム、中国雲南省)にまたがる総合開発プログラムであり、1992年にスタートした。プログラムは運輸、通信、電力、環境、人材育成、貿易、投資、観光の8つのセクターをカバーしており、

    1. 結果重視のアプローチ、
    2. 貿易ブロックを目指さない、
    3. 基礎インフラの重視、
    4. 民間を含めた外部資金の活用、
    を原則に進めている。各国がGMS担当の閣僚を置いており、閣僚会合を開催しているほか、各国の経済団体等で構成されるビジネスフォーラムも組織され、6月に事務局が設立される予定である。GMSに関する会合と対話を通じて、各国に相互信頼が生まれたといわれている。外国投資の減少、GMSへの各国政府予算の厳しさ、不良債権問題による各国経済の落ち込みといった環境変化がある一方、域内各国間の貿易、相互投資が活発になり、各国の経済回復を下支えしてきた面もある。
    運輸部門では、既に承認されている東西回廊(ミャンマー〜タイ〜ラオス〜ベトナム)などの他に、大マーケットである中国とタイを結ぶ南北回廊の実現を目指している。これら回廊は単なる道路建設のみでなく、沿線の開発や産業振興も含むプロジェクトである。通信部門では、デジタル・ディバイドに陥らないために、ITの普及と通信網の効率化に努めている。電力部門では、国境を越えた送電網の整備に力を入れている。観光部門では、観光が直接的な雇用創出と所得増につながることから、メコン河を6つのセグメントに分けて、基礎インフラ整備を進行中である。貿易部門では、通関手続きの簡素化などに取り組んでいる。
    ADBでは今後3年間に、域内の貿易投資促進や、インフラ整備による利益を国境地帯や貧困地帯へ還元することを重点目標に、9つの優先プロジェクト(運輸、通信、観光部門中心)を設定している。4億5,600万ドルの総コストのうち、ADBで2億6,500万ドルをファイナンスする予定であり、差額は協調融資を求めている。日本を中心とする協力に期待したい。

  4. 中央アジア諸国経済の現状と将来展望
    −ラジヴ・クマール プログラム東局第2課シニアエコノミスト
  5. 中央アジア諸国(アゼルバイジャン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタン)は、最近になってADBに加盟した国々である。原油価格の上昇や、ロシア経済の回復で2000年は高い(7.8%)経済成長を遂げたが、2001年は原油価格の下落、外国投資の伸び悩みなどが予想され、経済成長は低い伸び(3.3%)に留まるだろう。中央アジア諸国の市場規模は小さく、スケール・メリットを享受するためにも、また水資源、環境問題に取り組むためにも地域内の協力が必要であり、ADBとして積極的に域内協力体制の推進を図っている。各国ごとのばらつきはあるが、貧困問題(タジキスタン、キルギスでは全人口の60%以上が貧困層)やガバナンス・システムの未整備(民間企業の未発達、契約に関する法律の未整備)もあり、貧困層に焦点を当てた取組みや金融リストラ含めた構造改革、地域内外との協力が今後ますます不可欠である。


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