経団連くりっぷ No.148 (2001年5月24日)

中・東欧法務セミナー/4月20日

投資環境整備が進む中・東欧諸国

−ハンガリー、チェコ、スロバキア、CISにおける投資環境


中・東欧各国は、冷戦構造の崩壊とともに社会主義から資本主義・民主主義への移行を進め、EUへの加盟交渉に入るなど、欧州単一市場を視野に入れた体制整備を着々と進めており、諸外国からの投資も増大しつつある。そこで経団連では、スクワイヤ・サンダース弁護士事務所との共催で、これら各国における投資環境の現状と見通しについてのセミナーを開催した。

○ セミナー要旨

  1. 開会挨拶
    −糠沢前駐ハンガリー大使
  2. ハンガリーをはじめとする中・東欧各国はEU加盟を目指し、国際ルールを忠実に守り、法体系もEUに合わせようとしている。また、低賃金かつ高い知識レベルとビジネス環境が良好なため、外国からの直接投資が活発化しており、日本からの投資もたいへん歓迎されている。

  3. 概括
    −ケヴィン・コナー弁護士
  4. ベルリンの壁崩壊後の中・東欧諸国は政治的に非常に安定している。最大の特徴はモチベーションの高い労働力と低い労働コストである。特にハンガリー、チェコ、スロバキアは、EU加盟プロセスの第一陣にあり、既にOECDにも加盟し、安全かつ効果的な投資が可能な環境を築いている。また、法制度も既に確立されている。主要な先進諸国との間で二重課税防止条約を締結しており、さまざまな租税軽減措置や助成制度により対内投資の促進を図っている。ただし、これら諸国は市場経済への移行という大きな変革期にあり、「常に変化している」ことから、投資に際しては、変化に対する細心の留意が必要である。また、これら諸国では、法制度の運用経験が浅いことから、法の運用と解釈の確実化と健全な規制制度の確立が課題となっている。

  5. 各国駐在弁護士からの説明要旨
    1. ハンガリー
      −ブレイズ・G・A・パスツトリー弁護士
    2. ハンガリーは約1,000万の人口を有し、さまざまな人種からなるものの文化の統一性は高く、教育水準も非常に高い。2000年のGDP成長率は5.3%で、失業率も下がり、経済は好調である。通信、銀行、エネルギー等ほとんどの分野で旧国営企業の民営化が終了している。政治も安定しており、EUへの早期加盟を希望している。労働コストも低く、通信などのインフラも整っている。法制度は整備されており、多くの国と投資保護および二重課税防止協定が結ばれ、また、対内投資を促進するための優遇措置も設けられている。2000年末までの外国からの直接投資は、総額220億米ドルに達し、中・東欧諸国の中でも非常に高い水準にある。日本からの直接投資は、まだ全体の5%程度であり、残念ながら大きくはない。政府は特に自動車、電気機器、ソフトウェア産業などへの直接投資を望んでいる。

    3. チェコ
      −リチャード・サリー弁護士
    4. チェコは、約1,000万の人口を有し、地理的には欧州の心臓部に位置している。2000年のGDP成長率は3.9%であった。旧国営企業はエネルギーを除いてほぼ全ての分野で民営化され、政治も安定しており完全な民主化を実現している。教育水準も高く、特に工学エンジニアリングや物理化学分野の水準が非常に高い。インフラも十分整備されている。政府も外資誘致に積極的であり、電気通信や銀行など主要産業へも外資が投入されている。法制度も完全とは言えないものの、十分に整っている。日本からの直接投資額はまだ大きくはないが、すでに65社がチェコで事業を行っている。今後さらに増えるだろう。

    5. スロバキア
      −ケヴィン・コナー弁護士
    6. スロバキアは、1993年にチェコから分離した新しい共和国である。540万の人口を有し、地理的にはチェコ同様欧州の心臓部に位置している。重工業、原材料の加工および紙パルプ産業が盛んで、観光業も成長してきている。2000年のGDP成長率は2.5%程度である。失業率が19%程度と高いため、投資優遇措置を採り、外資を誘致するよう努力している。旧国営企業の80%はすでに民営化されており、銀行やエネルギー分野など残りの20%についても民営化が進行中である。スロバキアは、政治的に安定しており労働コストも安い。現政権は非常に投資志向が強く、環境整備に向け一連の法改正を実施している。現時点では、外国からの直接投資は大きくはないが、ここ1年で伸びてきている。

    7. CIS
      −サラー・C・ケアリー弁護士
    8. ロシアは、約1.4億の人口を有し、面積は世界最大である。経済は、1998年8月の国家債務不履行に伴ってルーブルが下落したため減速したが、2000年のGDP成長率は6.3%を記録し、ようやく持ち直してきている。投資環境については、労働コストが低く、特にハイテク分野の能力は高い。米国からもハイテク企業が進出しており、今後もこの動きは加速するだろう。天然資源も豊富である。外資規制は少なく、多くのOECD加盟国より自由なほどである。市場経済を支える法体系は整いつつあるが、銀行・証券・土地分野などは脆弱な面もある。ロシアへの直接投資は米国によるものが中心だが、額はまだ少ない。
      他のCIS諸国の法体系整備については、ロシアに大きく遅れをとっているのが現状である。

  6. 閉会挨拶
    −糠沢前駐ハンガリー大使
  7. 現在の中・東欧やロシアは、まだ他国の制度という貸衣装を着ているようなもので、経験が積み重なっていないが、長い目で見れば大きな可能性を持ち、非常に価値がある。日本企業もこれら諸国の将来性に着目し、積極的に投資してもらいたい。


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