経団連くりっぷ No.149 (2001年6月14日)

経団連第63回定時総会

今井会長

会長挨拶

今こそ、日本経済の構造改革の断行を

経団連会長 今井 敬

  1. 民主導の活力ある経済社会の構築
  2. 経団連会長に就任して、今年で4年目を迎えることとなった。この間、わが国経済は、1998年にマイナス成長を記録したが、その後、景気回復を最優先したあらゆる政策の総動員と、企業の懸命な努力が効を奏し、昨年の前半には、緩やかな回復軌道に乗った。しかし、秋以降の米国の景気後退等の影響もあり、経済の先行きは、再び予断を許さない状況となっている。
    わが国経済が、現在もなお、民需主導の自律的な回復軌道に乗らないのは、不良債権、過剰債務に象徴される、さまざまな構造問題の解決を先送りしてきたからに他ならない。企業、政府それぞれが、強い決意のもと、抜本的な構造改革を進めない限り、本格的な景気回復は期待できない。
    われわれ経済界は、対症療法的な政策は求めず、政府とともに、今こそ構造改革を断行し、新しい世紀にふさわしい、民主導の活力ある経済社会を構築していかなければならない。

  3. 構造改革は企業自ら取り組むべき課題
  4. 構造改革は、何よりもまず企業自らが、主体的に取り組むべき課題である。自立、自助、自己責任の原則のもと、無駄な贅肉をおとし、基礎体力を強化するとともに、新たな成長基盤を確立していくことが求められている。そのためには、先の緊急経済対策が指摘したように、2〜3年以内に「金融機関の不良債権問題と企業の過剰債務問題の一体的解決」をはかり、バランスシートを改善しなければならない。この過程では、過剰な債務を抱え、再建のめどがたたない企業に対しては、早期に市場からの退出を促すという、強い覚悟が必要である。併せて、雇用対策の機動的な実施も必要になると思われる。
    企業は、「選択と集中」の原則のもと、不採算部門を切り離し、高収益部門へ資源を集中するなど、組織の再編、合理化を進めていくことが不可欠である。そのためには、効率的な企業経営や企業統治のあり方について、株主代表訴訟制度の見直しを含め、商法、税制等の抜本的な改正が必要である。
    これまで経団連では、産業競争力会議や産業新生会議などの場を通じて、会社法をはじめとする経済法制の整備を政府に働きかけてきた。この結果、産業活力再生法が制定されたほか、純粋持ち株会社の設立や、企業組織の再編を円滑に行うための企業法制と税制の整備が実現した。われわれ経済界は、このような諸制度を存分に活用し、更なる体質強化に努めなくてはならない。経団連としても、政府に対して、引き続き、商法の抜本改正や連結納税制度の導入など、残された制度改革の確実な実施を求めるとともに、証券投資税制の整備など、資本市場の活性化策を働きかけていきたい。
    企業は、こうした構造改革を進めていくと同時に、日本経済の将来の発展を担う、新事業、新産業を育成し、新たな成長基盤を確立していく必要がある。
    例えば、近年の米国の高成長の大きな要因は、IT革命の推進による生産性の飛躍的な向上や、インターネット関連のニュービジネスの誕生などであった。日本でも、最先端のIT国家を目指し、e-Japan戦略による情報通信の基盤整備が急速に進められている。この結果、従来型のインターネット・ビジネスに加え、情報家電や次世代型携帯電話を活用した、新しいビジネスの拡大が期待されている。
    また、経済発展の原動力となる技術革新の推進も重要な課題である。バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、リサイクル・省資源等の環境関連テクノロジーなどの活用によって、食料、健康をはじめ、広範な分野のビジネスに、新たなフロンティアが、生まれつつある。

  5. 政府は、聖域なき構造改革の実行を
  6. わが国の景気が長期にわたり不振を続けている大きな要因の一つとして、消費の低迷があげられる。これは、国民が、将来の生活に対して抱いている、不安感の表れに他ならない。
    また、働く個人と同様、企業にとっても、将来の社会保障や地方税の負担増は大変に懸念されている。国、地方を合わせて666兆円、GDPの130%に達する債務残高を抱える財政の改善策と、持続可能な社会保障制度のあり方、そして将来の国民負担の姿を、政府は明確に、国民に提示しなくてはならない。その上で一日も早く、財政構造改革に着手すべきである。
    財政再建にあたっては、小泉総理も提唱しているように、まず、来年度予算で国債の発行を30兆円以下に抑え、次に、国債発行を国債費の範囲内にとどめる、プライマリーバランスの達成をはかることを当面の目標にすべきである。同時に、関連する諸制度の改革が急務となっている。
    その第1の課題は、社会保障制度改革である。わが国の老年人口の生産年齢人口に対する比率は、今後大幅に上昇すると見込まれている。こうした高齢化の中で、例えば、高齢者向けの独立した新たな医療制度を構築し、負担能力のある人には受益に応じた拠出を求めていく必要がある。第2の課題は、地方財政改革である。地方においても財政規律が働くように、国と地方の事務分担、税財源配分を見直し、地方自らの財政健全化努力を促していく必要がある。さらに、地方分権化を推進するための受け皿として、3,000以上ある市町村の合併の推進が不可欠となっている。第3の課題は、公共事業の徹底した見直しである。高コスト構造の是正につながる事業への重点化と、管理・運営を含めた事業の効率化が必要である。
    こうした改革を通じて、国民や企業が将来に不安を抱かず、安心して生活や経済活動を行えるようにすることが、景気対策として最も必要だと思われる。
    また、民主導の活力ある経済社会を構築していくためには、このような財政構造改革に加え、政府が行政改革や規制改革を進めていくことが不可欠である。行政改革で特に重要なのは、巨額の財投および財政資金が投入されている特殊法人等を、事業の必要性や採算性、民業補完の徹底といった視点から、見直していくことであり、民がやるべきことは民にまかせることが根本である。
    また、郵政三事業は2年後に公社化されるが、郵便事業への民間参入の大幅な拡大をまず実現するとともに、更なる改革を進めていく必要がある。規制改革については、総合規制改革会議に対して、規制改革3か年計画の前倒し実施や、医療・福祉、教育、雇用など、制度改革を伴う分野を含めた、抜本的な見直しを働きかけていきたい。

  7. 国際的課題への対応
  8. 企業活動のグローバル化が急速に進む中、多国間の貿易、投資の自由化やルールの整備が、従来にも増して重要になっている。
    本年11月に、カタールで開催される第4回のWTO閣僚会議の場では、包括的なアジェンダを含む新ラウンドの開始を合意できるよう、わが国が強力なイニシアティブを発揮する必要がある。他方、140ヵ国が参加するWTOでの自由化やルールづくりは、時間のかかる大変な作業である。そこで、WTOを補完すべく、自由貿易協定を二国間や地域レベルで推進していくことも、わが国にとって重要な課題である。すでに、シンガポールとの間では、本年末までの締結を目指し、わが国として初めての交渉が進められている。これをまず成功させ、韓国、メキシコなどの国々との協定締結につなげていく必要がある。
    また、本年4月にタイ、シンガポールを訪問した際、両国からは、官民をあげて、日本との経済関係の一層の緊密化への強い期待が表明されると同時に、ASEANの結束強化がアジアの安定につながるとの認識のもと、ASEAN自由貿易地域の実現に対する協力を求められた。こうした期待に応え、アジア諸国の産業基盤の強化に、官民が協力して支援し、地域の発展と連携の強化に貢献していくことは、わが国にとってきわめて重要である。
    地球温暖化問題については、昨年ハーグで行われたCOP6で、京都議定書の詳細をめぐり参加国の合意を得ることができなかった。また、本年3月には、米国政府が京都議定書からの離脱を表明している。経団連としては、日本政府に対し、米国を含む枠組みの早期実現に努めるよう働きかけると同時に、自主行動計画に基づく温暖化対策を進めるなど、責任ある取組みを続けていきたい。

  9. 真の総合経済団体を目指す
  10. 経団連は、民間活力を自由に発揮できる経済社会を実現するための、優れた政策提言能力と実行力を有する真の総合経済団体を目指して、来年5月に日経連と完全統合し、「日本経済団体連合会」として、新たなスタートを切る。すでに、社会保障などの一部の委員会では共同で意見を取りまとめるなど、できるところから一体化を進めている。新団体の設立を通じ、わが国が直面する広範な課題に、従来以上に、柔軟かつ大胆に取組み、迅速かつ着実な解決をはかっていきたい。


くりっぷ No.149 目次日本語のホームページ