経団連くりっぷ No.149 (2001年6月14日)

新産業・新事業委員会 起業家懇談会(座長 高原慶一朗氏)/4月18日

保護助成よりも経営者教育、経営の指南役の登場を

−第3回起業家懇談会を開催


渋谷ビットバレーをはじめ、ネットビジネスやNPO等の社会的分野で活躍している若手起業家と、若い世代の新しい動きやベンチャー企業をとりまく環境・課題等について、今井会長をはじめ、経団連首脳との間で説明をきくとともに意見交換を行った。以下はその説明要旨である。

  1. 石田宏樹 フリービット・ドットコムCEO説明要旨
  2. 大学3年の時にISP(インターネットサービスプロバイダー)を始めたことが三菱電機の目に留まり、同社のプロバイダー事業であるDTIの立ち上げを任された。DTIは、設立して2年目で黒字化し、2000年9月には株式を公開した。また、1998年から2000年まで、全ての雑誌において顧客満足度No.1に選ばれた。DTIからは、事業の黒字化への姿勢、組織運営のノウハウ等を学んだが、中でもインターネットの基礎にあるインフラのコスト構造を知ることができたのが大きかった。
    日本のISPの低い技術力、マーケティングセンスの不足、ベンチャー感覚の欠如などが原因となって日本のインターネット利用率は低い。そこで、DTIを離れ、フリービット・ドットコムを設立した。証券会社や大学等に対し、無料ISPを支援するISP事業を行っている。カード会社等とも連携し、潜在顧客として全人口の45%に無料インターネットのチャンスを提供し、企業、組織、既存のユーザーに対するシナップス(接合)としてのネットワーク提供の可能性を開いた。DTIの退会理由で最も多かったのは、インターネットを使う目的が存在しなかったことであり、フリービットは、目的型のISPの促進活動を進めている。

  3. 本間毅 イエルネットCEO説明要旨
  4. 大学在学中の1995年に、パソコン1台でウェブコンテンツ制作を目的に創業した。1999年には、ベンチャーの合弁で、オンライン上の個人情報管理サイトのサービスを行うPIM(資本金1千万円)を設立、翌年には、54億円で売却し、ベンチャーのダイナミズムを体験した。
    本業のイエルネットでは、米国からCOOを招聘して、経営基盤の強化を図っている。日本では、経営に対する教育システムが非常に脆弱である。私は、経営者を目指して大学の経営学科に入ったものの、理想とのギャップに悩み、在学中に起業を決意した。これまでのベンチャー支援策は、資金援助、場所の用意等の保護政策が中心であり、ベンチャーにとって最も重要な、背中で生き様を見せてくれるような経営に対する指南役がいない。

  5. 長谷川岳 YOSAKOIソーラン祭り組織委員会専務理事説明要旨
  6. 10年前、10チーム1,000人の参加を得て、YOSAKOIソーラン祭りという参加型のお祭りを始めた。北海道のソーラン節と兄が住んでいた高知のよさこいをミックスさせた。今では全国32都府県から4万1,000人、408チームが参加する北海道最大のお祭りに成長した。
    自分達の好きなことを自分達の力でやりたいということから、祭りの運営予算(2億2,000万円)は、行政からの補助金の割合を1.5%まで落とし、参加費、商標の活用やテレビの放映権などの自主財源中心に運営している。
    YOSAKOIソーラン祭り参加者のほとんどが農業に従事しているため、インターネットで農産物等を販売する、YOSAKOIネット事業も始めた。さらに、学校教育のなかでソーラン節を運動会に使うようになったので、お祭りの立体映像の需要も発生してきた。そこで、今年5月に(株)YOSANETを設立する。
    NPOはこれからのシンクタンクになりえるし、今後はNPOが企業を生み出す時代になっていくだろう。

  7. 木下斉 商店街ネットワーク社長説明要旨
  8. 5年前から早稲田の商店街で始めた商店街の環境整備、街づくりの活動を基に商店街の活性化のための活動を行っている。商店街の観光ビジネス化、全国商店街間の物流システムの構築、メーカーとの共同新商品開発や共同販売などを商店街に代行して展開し、スケールメリットの発揮を図っている。
    今の学校教育には、10代の若者が、起業家社会の空気に触れる機会がない。10代だからこそできることがあるので、起業家教育の充実を図るべきである。

  9. 宮城治男 NPO法人ETIC.代表理事、ビットバレーアソシエーション事務局長説明要旨
  10. ビットバレーは、バブル崩壊、大企業の相次ぐ倒産を背景に起業家精神が盛り上がっていた時に、インターネットの普及や新株式市場の創設と結びついて知られるようになった。実際にそれらの流れが学生や大企業のビジネスマンがベンチャーの世界に挑戦する機会が拡大し、ベンチャーの裾野が広がってきた。その後のネットバブルの崩壊を契機に、真に成功する本物のアントレプレナーについての議論が本格化している。一方で起業の形態も多様化し、SOHOやNPO等も注目されるようになっている。また、基本的には、起業家に対し安易に行政が助成するよりは、支援側の起業家精神が必要あり、その問題意識と志ある支援側プレイヤーが育つ仕組みが求められる。具体的にはNPO法における寄付税制等の制度を拡大し、民の手で支援事業が支えられる環境をつくるべきである。
    従来の教育では、事業に挑戦する目的、夢、どういう価値を社会に生み出していくのかという点が欠けている。
    個人の使命感や志に基づいて社会的に意義のある活動をビジネスとして行い、社会的なイノベーションを起こしていく社会的起業家(ソーシャル・アントレプレナー)を支援し、育てていくことが重要だと思う。ETIC.では、社会的起業家および予備軍の起業やキャリアデザインを支援すべく新規事業をスタートした。そのような新しい起業家がリーダーとなってベンチャー支援を含め、社会のイノベーションを進めていくと確信している。


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