経団連くりっぷ No.149 (2001年6月14日)

アメリカ委員会企画部会(部会長 本田敬吉氏)/4月19日

デジタル技術により、経済構造とビジネスモデルは激変する

−富士通システム本部 高橋主席部長よりきく


アメリカ委員会企画部会では、米国におけるIT活用の進展が米国経済に与えた影響を中心に、米国経済について多角的に検討を行っている。この一環として、富士通システム本部の高橋 浩主席部長より、IT革命がもたらすデジタル融合市場の特徴について説明をきいた。

○ 高橋主席部長説明要旨

  1. IT革命により生じるデジタル融合
  2. 経済の基盤がアナログ技術からデジタル技術に置き換わったことにより、情報機器を始め、あらゆるところでデジタル技術による融合が進む「デジタル融合」が発生している。これにより、データやサービスが誰にでも利用可能となり、利用者と提供者間の壁が消失し始めている。また、低コストでグローバルな情報収集・発信が可能となり、ビジネスの構造が変わる。さらに、消費者の個別ニーズの提示と選択が可能となり、その結果、「顧客主導で変化が常態化する世界」がもたらされる。
    企業がこの世界への移行を主導するためには、過去の遺産(流通網、商慣習、契約形態等)を乗り越えてニュー・パラダイムを切り開く必要がある。そのため、企業には、ビジネスのアイディアに加え、ビジョン、指導力、リスクへの挑戦が求められる。すなわち、デジタル融合の本質は、「アイディア、ビジョン、挑戦マインド、実践力が一体となった総合的統率力による変革」である。

  3. デジタル融合がもたらす市場の変革
  4. デジタル技術により、業界の壁が崩れ出している。まず、ネットワークを構成するコンピューターとネットワーク機器の境界が曖昧になるなど、業界ごとに異なっていた機器の融合が進んでいる。また、それらの機器を使用していたオペレーター、メーカー、ユーザーの関係も、ユーザーのニーズ最優先という観点から変化している。そして、従来は、映像は電波、音声は電話回線、テキストはインターネットと縦割りの構造で流通していたコンテンツが、すべてインターネット・プロトコルにより流通し、流通形態も有線・無線を問わなくなっている。そして、業界の壁が撤廃され、新たな「デジタル融合市場」が形成されてくる。
    また、デジタル融合により、ビジネス環境の変化のスピードも加速しており、スピードについていけない企業は市場からの退出を余儀なくされている。
    この結果、あらゆる業界のあらゆる企業が、変化への対応を求められている。その中で、デジタル市場の覇者となるための争いも始まっており、これが新たな合縦連衡の流れを生んでいる。これまでは、異業種間の合併には成功の保証がないため、企業はあまり積極的ではなかった。しかし、現在、自らに有利な競争ルールを確立し、この市場で勝ち残るために、合併が進んでいる。その最たる例がAOLとタイムワーナーの合併である。合併により、AOLタイムワーナーは新たなルールメーカーとなり、同業他社は、その競争ルールに従わざるを得なくなった。
    また、参入障壁が低くなったことにより、多様な競争者が登場し、一段と競争が激化している。その中で、企業は、生き残りをかけて、最も得意な分野に注力し、他を捨てる行動に出ている。例えば、IBMは、自社のネットワークを使って企業向けネットワーク・ビジネスを行っていたが、自社使用を含め、ネットワーク・サービスをAT&Tに売却した。
    こうした市場において新技術を発展させるためには、できるだけ自由競争に委ねる必要がある。しかし、この競争では、収穫逓増のルールが働くため、自由競争に任せていては、勝者による独占が生じてしまう。そこで、国が監督機関となり、競争を継続させるためのコントロールを行う必要も出てくる。例えば、2000年6月、アメリカ司法省は、MCIワールドコムによるスプリント買収が反トラスト法(独占禁止法)に違反しているとして、合併差し止め訴訟を請求した。

  5. 競争原理およびビジネスモデルの変革
  6. デジタル融合市場の新たな競争の基本原理として、(1)顧客志向を徹底する、(2)自社の強みを生かせる領域にフォーカスする、(3)買収・提携を戦略的に行う、(4)合意形成のためにオープンフォーラムを活用する、ことがあげられる。オープンフォーラムとは、多くの企業が参加して、ビジネス調整を行い、アプリケーションを創成し、新規の方向を模索する場である。そのうえで、(5)自らのビジネスモデル貫徹に必要な戦略的行動を迅速に行うことが必要となる。
    インターネットは、社会・経済システムそのものを変化させている。そして、この変化はこのまま継続し、新しいインフラ上でのビジネスモデルの競争が一段と加熱すると考えられる。その際、ビジネスモデルは、ネットの双方向性、一対一接続の利点を生かして自ら意思表明を行うユーザーをターゲットにしたものになる。今後は、優れたビジネスモデルが新しいシステム導入の動機付けとなり、新しい評価尺度を生み出し、さらに優れたビジネスモデルの創出を促すという変革のスパイラルが継続すると考えられる。

  7. 個人の行動の変革
  8. インターネット時代は、インターネットという新たなプラットフォームの登場による対象システムの広域化や複雑化などの技術的変化と伴に、質的変化をもたらしている。
    すなわち、ビジネスモデル特許が登場する等、評価のポイントがビジネスそのものの価値にシフトしている。この新たな環境に対応するために、企業のみならず個人も変化を求められている。社会の構成員はリスクテイクを含め、「自立した個人」となることが求められ、また、新時代を切り開くリスクに挑戦する起業家の役割も期待される。そうした中で、個人の側にも、自らの専門性とキャリア・パスを重視して、自己投資に努め、より有利な条件を求めての転社もいとわないという態度が強まる。


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