経団連くりっぷ No.149 (2001年6月14日)

アメリカ委員会企画部会(部会長 本田敬吉氏)/5月28日

新たなビジネスモデルによりEC市場はさらに拡大する

−早稲田大学国際情報通信研究センター前川客員教授よりきく


米国では、インターネットの商用利用が急速に進んでおり、その結果、新たなビジネスモデルも構築されている。そこで、早稲田大学国際情報通信研究センターの前川 徹客員教授より、米国におけるエレクトロニックコマース(EC)の現状と展望について説明をきいた。

○ 前川客員教授説明要旨

  1. 米国インターネット利用者の動向
  2. 2000年12月現在、世界のインターネット利用者は4億人を超えた。この10年間の平均成長率は76.4%である。米国では、そろそろ利用者人口が伸び悩むといわれているが、それでも全世界では、年間50〜60%の成長が数年は期待できる。

  3. ネットビジネスによる中間業者排除
  4. ネットビジネスの新しい動きとして、中間業者排除があげられる。
    例えば、Dell Computerは、従来カタログや電話による販売をしてきたが、1996年からインターネットを利用した直販を開始した。その結果、売上は順調に伸び、2000年7月時点で1日に5,000万ドルに達している。
    食料品雑貨のオンライン販売を展開するPeapodは、1万8,000種の食料品雑貨を扱っている。利用者は、ウェブ上で品目を選び、配達時間を指定できる。同社は、以前は、倉庫を持たず、提携スーパーから食品雑貨を購入していたが、現在は自社で倉庫や配送センターを有している。
    トラベル・サービス・サイトであるTravelocityは、最大手のコンピューター予約システムであるSABREを運用管理しているSABRE Groupが運営するサイトである。同社がTravelocityを運営することにより、旅行代理店が排除される。

  5. 情報仲介業の発展
  6. インターネットの利用によって、中間業者排除が進む一方、新しい仲介業者も生まれている。それが情報仲介業(Informediaries)である。eマーケットプレイス、あるいはeハブ、オンライン仲介業と呼ばれるものは、BtoB分野における情報仲介業である。
    BtoCの情報仲介業は、顧客紹介型、潜在顧客紹介型、サイト紹介型、オークション型に分類できる。
    例えば、顧客紹介型サイトのAutobytelは、利用者に自動車に関する情報(車種別の仕様や価格情報など)を提供する一方で、自動車の購入希望者をディーラーに紹介することによって収入を得ている。
    潜在顧客紹介型のPersonaは、消費者に対してプライバシー情報の保護サービスを提供しつつ、消費者が指定した企業やサイバーショップに指定された個人情報を売るというビジネスを展開しようとしている。企業は効率的なマーケティングが可能になり、消費者は必要な時期に必要な情報を入手可能になる。

  7. eマーケットプレイスの動向
  8. eマーケットプレイスは、複数の売り手と複数の買い手が取引を行うモデルである。このモデルは、決まった相手といえども、複数の売り手と買い手が存在する点で、インターネットEDIの進化したものと捉えることができる。
    Forrester Researchによれば、米国におけるインターネットを利用した企業間取引市場規模は、2004年には、2.7兆ドルに達し、そのうち1.4兆ドルは、eマーケットプレイスでの取引額であると予測される。
    しかし、日本では、不特定多数との取引よりも、取引相手の信頼性を重視した特定多数との継続的な取引を行うケースが多い。そのため、eマーケットプレイスにおける取引は拡大するものの、米国ほどには大きくならないであろう。

  9. Amazon.comの事業戦略
  10. ネット上の世界最大の書店であるAmazon.comのビジネスモデルは、倉庫モデルと呼ばれる。当初は倉庫を持たずに事業を行っていたが、可能な限り速く消費者に書籍を届け、顧客満足を高めるため、現在では米国に7つ、海外に4つの倉庫を有する。
    同社の売上は、1997年の50万ドルから、2000年には28億ドルへ拡大した。また、同社は1998年からCDやビデオ、2000年から自動車の販売をするなど取扱い商品も拡大してきた。しかし、以前は自ら在庫を抱えて商品を増やしていたが、近年は、提携企業を増やすことによってそれを達成している。すなわち、同社はこれまで築き上げた顧客リストやブランドを利用して、取扱い品目を増やすと同時に、ブランド使用料として収入も増やしているのである。
    同社の成功要因は、ウェブ上の豊富な情報、販売網を広げるアソシエイツプログラムの採用、利用者へのリコメンデーション、1−Clickシステムなどの充実した顧客サービスにあると考えられる。

  11. オンライン企業のとるべき戦略
  12. ネット上では、ワンクリックで別のサイトを見ることができるため、商品の価格を上げると、顧客が離れてしまうと言われる。しかし、Amazon.comより価格の安いサイトは存在するものの、それらのサイトが必ずしも顧客の支持を得ていない。また、オンライン・ブローカーであるCharles&Schwabも、手数料は高いものの、サイトの信頼性や、サービスおよびコンテンツの充実により支持を得ている。このように、利用者の間では、価格よりもサービスが評価の対象となっている。したがって、オンライン小売企業のとるべき戦略として、低価格競争に参加しない、価格以外の要素で競争優位に立つ、顧客満足度を向上させブランドを構築する等が重要である。

  13. 米国のEC市場規模の予測
  14. Forrester Researchの1999年9月28日の予測によれば、2004年の米国の消費者向けEC(BtoC)市場は、1,840億ドルであり、小売市場の6〜7%に過ぎない。他方、Jupiter Media Metrixの2000年10月2日の予測によれば、2005年の企業間EC(BtoB)は、6.3兆ドルにのぼり、全企業間取引の42%に達する。この予測の差の背景にあるのは、消費者はネット上で商品を購入しなくても、近くの店舗で購入すれば事足りるが、企業は同業他社がネットを利用して取引コストを下げると同時に、取引相手を拡大していれば、自らもネットを利用しないと、企業間競争に負けてしまうという事実である。


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