経団連くりっぷ No.150 (2001年6月28日)

第124回関西会員懇談会/6月13日

構造改革の断行と民主導の活力ある経済社会の実現


「構造改革の断行と民主導の活力ある経済社会の実現に向けて」をテーマに、標記懇談会が大阪市内において開催された。当日は今井会長、岸・片田・香西・西室・吉野の各副会長が出席し、関西地区における経団連会員約200名の参加の下、意見交換が行われた。

  1. 関西会員からの発言要旨
    1. 海保 孝 大和銀行頭取
    2. 関西地域の景気については、企業倒産件数や失業率などの指標が全国平均を上回るなど、非常に厳しい状況にある。将来に対する不安、閉塞感が強い中、わが国経済を持続的な成長過程に乗せるためには、国のみならず個人、企業が明確な目標を持って構造改革に取り組むことが必要である。
      金融界では「日本版ビッグバン」により経営の自由度が増す中で、市場原理の下での競争や自己責任原則が浸透しつつある。今後、時価会計の本格導入やペイオフ解禁を控え、金融システムに対する国民の信頼をさらに高めるため、政府の緊急経済対策に示されたように、(1)不良債権の最終処理、(2)持合株式の圧縮が最重要課題である。
      (1) については、雇用のセーフティネットの整備動向などをにらみつつ、銀行界として引き続き努力する。但し、不良債権処理には痛みが伴うため、各地域毎の雇用面、生活面への影響を明確にし、国民の理解を得つつ進める必要がある。また、(2) に関しては、今後さらなる圧縮を進める上で、株式保有のインセンティブとなる税制改正や日本版401k制度の早期導入と制度の拡充など、個人株主育成策が足並みを揃えて進展していくことが望ましい。

    3. 井上 礼之 ダイキン工業社長
    4. 「第二の予算」といわれる財政投融資制度については、本年4月の財投改革により郵貯や簡保の資金が国の資金運用部に自動的に流れ込む制度を廃止し、各財投機関が財投機関債発行を通じて、市場から独自に資金を調達する仕組みに改めた。しかし、33の財投機関に対して、今年度、財投機関債を発行するのは20機関にとどまり、また発行額も少なく、改革の趣旨にはほど遠い内容となっている。
      とりわけ、財投の「入口」である郵貯については、あり方を見直さなければならない。金融の国際化、自由化が進む中、巨大な「国家金融」が存在することの是非について問い直す必要がある。既に特殊法人に投入された財投資金は255兆円にのぼり、財投の抱える不良債権は民間銀行のそれを上回るともいわれている。財投改革に際して、まず必要なことは、財投機関の資金調達を財投機関債に限定し、財投債の発行を廃止することである。財投債という「逃げ道」を封じることで、財投機関の情報公開を進めていくことが肝要である。

    5. 倉内 憲孝 住友電気工業会長
    6. 電子政府プロジェクトの推進に当たっては、ITが発展途上で未成熟な技術であることを認識する必要がある。インターネットなどは日常生活に活用され、企業活動にもインパクトを与えているが、まだ十分に安心して使えるものではない。一方、行政システムは、国民生活に密着した総合システムとして高い信頼性が要求される。こうした行政システムにITを適用し、期待される効果をあげるには相当な技術開発やシステム開発が必要である。つまり、ITが電子政府の形で実現されて初めて信頼性のある技術として社会に認知される。
      また、電子政府が信頼性など本来、行政が有すべき品質を維持しつつ、手続のワンストップ化など、期待する効果をあげるためには、行政とIT専門家の密接な協力が必須となる。わが国社会で、IT技術がオールドエコノミーに活用されることが経済・社会的に最も意味があり、その一つの典型が「電子政府プロジェクト」であろう。電子政府を単に景気対策のための投資対象として捉えることなく、あくまで戦略的な行政システム改革プロジェクトとして位置付け推進されることを期待する。

    7. 武田 國男 武田薬品工業社長
    8. 関西には、生化学などに高い実績を持つ各大学・研究機関や製薬・医療関連機器メーカーなどの企業が多く集積している。これまでのライフサイエンスにおける実績を踏まえ、ゲノム解明を起爆剤として、将来、世界の先端医療の中心になることが期待されている。
      関経連のアクションプランの一つである「ゲノム先端医療研究開発センター構想」は、ゲノム情報などに基づく先端医療の実現と、関連産業や地域への波及効果が期待されるものである。これら関西におけるプロジェクトは、「ミレニアム・プロジェクト」など国家レベルのプロジェクトと相まって先端医療の発展等に大きく貢献するであろう。
      多国籍の有力企業は、研究開発投資の規模と効率性を確保するため、大型のM&Aを繰り返しているが、日本の製薬会社はスケール面では後塵を拝しているものの、これまでの研究開発の結果、医薬品として国際的に高い水準にあり健闘している。今後、こうした製真産業をはじめ、わが国の産業構造を一層高付加価値なものへ転換していくことが望まれる。

    9. 自由懇談
    10. 秋山喜久氏(関西電力会長)より「構造改革に当たっては、不良債権処理のみならず、雇用対策、産業振興、地方の財政自立、都市再生などに同時に取り組む必要がある」との発言があった。また、松下正幸氏(松下電器産業副会長)より「対外経済政策を戦略的に推進するため、WTO新ラウンド交渉の推進に加え、自由貿易協定を複数国との間で同時に進めるべき」との意見が表明された。

  2. 経団連会長・副会長発言要旨
  3. 片田副会長より「会社法制の整備」、西室副会長より「社会保障制度改革に向けた取り組み」について発言があった。また、岸副会長が「IT革命推進に向けた取り組み」、吉野副会長が「総合的な科学技術政策の推進に向けた取り組み」について説明した。さらに、香西副会長が「構造改革を通じた関西の活性化」について発言した。
    最後に今井会長から、関西におけるさまざまな取り組みを踏まえつつ、経団連として構造改革等に積極的に取り組んでいくとの総括があった。


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