経済法規委員会(共同委員長 小林正夫氏、千速 晃氏)/6月5日
商法改正は、現在、今通常国会に代表訴訟関連と金庫株関連が、それぞれ議員立法で提出されているほか、法制審議会会社法部会が、本年秋の臨時国会と来年の通常国会で大規模改正を目指している。4月18日には「商法等の一部を改正する法律案要綱中間試案」が公表された。そこで、経済法規委員会では、東京大学法学部の神田秀樹教授を招き、「商法改正の全体像」について説明をきくとともに意見交換を行った。
今回の一連の商法改正の動きは、基本的考え方の変更まで踏み込んでおらず、抜本改正と言うより多数項目の改正と言うことがふさわしい。
企業を取り巻く環境が国内的にもグローバルにも変化する中で、高度成長期には気にならなかったわが国商法の制約の多さが、今日に至って強く認識されるようになったことが、改正の背景にある。
今回の改正は、企業金融(ファイナンス)、企業統治(ガバナンス)、IT対応、クロスボーダー対応の4つを改正の視点に置いている。
企業統治についての提案は、具体的な企業不祥事をきっかけとしているわけではないため、改正の理念や目的が明確ではないとの問題がある。不祥事の再発防止について、ある程度の法律での強制もやむをえないが、企業の競争力、パフォーマンスを向上させる改革であれば、法律で強制すべきものではない。現状で一番重要なのは、経営の透明性(外から見た分かりやすさ)であり、そちらを主軸に考えた方が良い。
5月18日、議員立法により国会に提出された金庫株解禁等の法案は、自己株式の取得保有制限を緩和するとともに、法定準備金減少手続の整備、株式分割の際の純資産額規制の撤廃、単位株の廃止と単元株制度の創設などを内容とし、基本的に賛成である。商法が自己株式の取得保有について事前規制を設ける理由はほとんどなく、制約を設けるとすれば証券取引法による相場操縦規制やインサイダー規制を行えばよい。
なお、上場公開会社が自社株式を特定の株主から相対で取得する際に、非公開会社における相対取引規制を適用して、他の株主へ売却の機会を与えさせることは疑問である。非公開会社と異なり、公開会社の株式は市場価格で売却できるので、規制の理由が無い。他の株主に売却の機会を与えるとなると、特定者間での持合解消が困難となる。
例えば、特定の株主だけから取得するために市場価格より安い価格で売買せざるを得ないという不合理なことになる。
5月30日、議員立法により今国会に提出された企業統治法案については、一点、監査役の強化の対象が、商法特例法上の大会社になっている点に不満が残る。大会社であっても、100%子会社に4名中2名以上の社外監査役を強制するのは行き過ぎであり、公開会社を対象とすべきであった。商法は昭和49年以来、会社の規模を基準とする規制になっているが、今後そうした区分は変更していく必要がある。
株式関係
株式関係については、ほとんど問題が無い。ただし、株主以外への一定比率以上の新株発行について総会の特別決議を課す点は、「一定比率」を発行済株式の5分の1としてよいかどうか、また、株主総会を開きやすくするべきではないかといった課題がある。
会社の機関関係
会社の機関関係について、株主総会の特別決議の定足数の緩和と、株主提案権の行使期限の繰上げは、妥当な改正である。
一方、大会社に対する社外取締役の1名の選任強制については、2つ疑問がある。1つは、社外監査役の人数を監査役の半数以上とする議員立法との関係で、社外取締役と社外監査役の両方を増やすことの合理的理由が示されていないこと、2つ目は、社外取締役選任の効果が不明で、1人では、意味がないと思われることである。
なお、子会社の株式の全部譲渡等に対して営業譲渡と同様の規定を適用する提案については、併せて、子会社株式を会社分割の対象とすべきであろう。諸外国では、子会社の株式の全部又は一部をもって会社分割を行うことが可能になっている。
会社の計算・開示関係、その他
会社の計算・開示関係およびその他については、基本的に問題はない。ただし、外国会社に関する規定は、色々と異論が出されているが、適切な対案もなく、難問となっているようだ。