経団連くりっぷ No.150 (2001年6月28日)

貿易投資委員会総合政策部会(部会長 團野廣一氏)/5月24日

WTO新ラウンドに対する各国の立場

−外務省経済局 伊原 国際機関第一課長よりきく


11月のWTOカタール閣僚会議に新ラウンドを立ち上げるために乗り越えるべき今後の課題について、外務省経済局の伊原純一国際機関第一課長より説明をきいた。

○ 伊原課長説明要旨

  1. ジュネーブでの議論
  2. ECDのコミュニケでWTO新ラウンド支持が明確になったことは政治的意味合いからも評価できる。しかし、途上国の実施問題、米国の積極性の欠如、交渉のアジェンダ範囲に関する各国の意見の隔たり等、実質的な議論で各国の利害関係を調整していくことは難しく、将来を楽観視することはできない。ジュネーブでは、7月末の合意形成を目標に「リアリティ・チェック」を開始しているが、今後2〜3ヵ月の話し合いがラウンド立ち上げに向けた第一の山場となろう。

  3. 主な問題点
  4. 第1に、米国政府の議会との関係がある。ゼーリックUSTR代表は、TPA(大統領通商促進権限)を獲得するため、閣僚宣言は短く、一般的な記述にとどめ、交渉項目を後から新たに付け加えられるような柔軟な表現にすることを希望している。つまり、米国の案では日本の望むアンチダンピングが明確に記述されないということになる。また、「narrow round(より交渉対象項目を絞ったラウンド)」に落とし込むことを考えている。日本としてこのような米国の案を受け入れることができるか検討が必要である。
    第2に、フランス大統領選挙が既にEUのポジションに影響を与え始めており、交渉姿勢がかたくなになる可能性があるということである。
    交渉の鍵を握るのは、なんといっても米国とEUである。仮に欧米がアジェンダに合意せずに閣僚会議に突入することになれば、シアトルの二の舞にもなりかねない。この二国間の溝をいかに埋めていくかが最大の課題である。
    第3に、途上国の新ラウンドに対する警戒心があげられる。インド、パキスタンが新ラウンド不支持の強硬派であることは知られているが、わが国にとっては、ASEAN各国が消極的である点が懸念される。特に、マレーシアは新ラウンに懐疑的であり、インドネシア、フィリピンがその影響を受けている。また、香港は投資、競争を交渉項目に入れる必要性を見出していない。シンガポールはラウンドに特に関心があるわけではない。ゼーリックUSTR代表は、アジアで新ラウンドを支持しているのがわが国と韓国だけである点を問題視している。
    APECは各国の理解を促進する場として重要である。中国は加盟申請国として交渉にオブザーバー参加することが認められており、中国に新ラウンドの重要性を理解してもらうことが肝心である。
    いずれにせよ、WTO協定の実施に苦しむ途上国の理解を得るには、まずは先進国間で歩み寄らなければならない。


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