経団連くりっぷ No.151 (2001年7月12日)

なびげーたー

司法改革の成否は、国民一人ひとりの手にある

経済本部長 角田 博


司法制度改革審議会が、63回の審議(1回5時間)を経て、最終報告を小泉総理に提出した。改革は実施段階に移る。

 1999年7月に発足した司法制度改革審議会(会長:佐藤幸治京都大学名誉教授)が6月12日に最終報告を小泉総理に提出した。行政改革や規制緩和の進展で、事前規制から事後チェックの世の中に変わってきている中、司法の役割はますます重要となっている。わが国の法曹人口は、約2万人と諸外国に比べて絶対的に少なく、地方では、弁護士過疎が深刻である。また、弁護士情報が少なく、その費用も透明性が欠けるとの批判があり、司法は国民に近寄りがたいとの印象を与えている。経済活動に関連しても、知的財産権等、専門性を要求する訴訟に時間がかかることから、経団連では、かねてより、法曹人口の拡大や裁判の充実・迅速化を求めてきた。

 審議会の最終報告では、こうした課題について、(1)国民の期待に応える司法制度、(2)司法制度を支える法曹の在り方、(3)国民的基盤の確立の3本柱を掲げ、具体策を提言している。(1)では、裁判期間短縮のための計画審理の推進、専門的知見活用のための専門委員の導入、弁護士費用の敗訴者負担制度の導入、民事法律扶助の拡充、紛争解決手段(ADR)の活用等が、(2)では、法曹人口の拡大、法科大学院(ロースクール)構想の推進、裁判官・検察・弁護士改革が、そして、(3)刑事事件への裁判員制度の導入が、それぞれ取りあげられている。

 裁判官改革では、純粋培養を避けるため、判事補から判事になる際に、他の職業経験が要件とされることとなった。一方、弁護士の裁判官任官を促進するために、最高裁と日弁連が、「弁護士任官等に関する協議会」を設置して取り組むことになった。また、弁護士改革では、報酬の透明化、合理化や情報の公開が提言された。この一環で、弁護士法72条の明確化が要請され、一定の弁護士活動分野で隣接する法律専門職種とともに企業法務の活用に道を開くことが方向づけられた。なお、米国に倣って導入が検討されてきた、懲罰賠償、クラスアクション、ディスカバリー制度は、いずれも弊害が大きいことから見送られた。

 今後の展開で気になるのは、国民の司法参加である。刑事裁判の一部について、一般国民から選ばれた裁判員が、裁判官と一緒に裁判の決定に関与する制度の導入が提言されているが、国民の司法への参加意識が伴わなければ画餅に帰すであろう。司法改革の成否は、まさに国民の意識改革にかかっている。司法制度改革の実施にあたっては、近く内閣に準備室が設けられ、関連法案の策定が進められることになる。予算措置や人員の確保とともに、司法改革を国民的運動に高めることが必要である。30年前の臨時司法制度調査会の二の舞を演じてはならない。


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