米国のEビジネスに関する懇談会(座長 村上輝康氏)/6月26日
いわゆるITバブル崩壊後、構造改革に直面している米国IT企業の動向と展望について、日経E-BIZの小口日出尾編集長および水野博泰副編集長より説明をきくとともに意見交換を行った。
IT関連企業が発表したリストラ目的のレイオフ者数は、本年1〜3月期だけで70万人を超えた。E(エマージング)ビジネス市場におけるベンチャー・キャピタルの新規投資案件数は減少し、投資対象企業の選別が行われている。しかし、投資金額自体は日本をはるかに上回っている。
米国のEビジネスは、1995年から2000年にかけて、IT産業で唯一儲けていたパソコン産業が成熟するとともに、Eビジネス企業の競争戦略が、先行優位・マーケットシェア確保型から経営力や操業効率を競う段階に入っている。
先行優位マクロモデルが成立するかを判断するのに重要な指標企業であるAmazon.com(以下、アマゾン)は、事業拡大とともに売上高を伸ばしていたが、その間赤字が続いていた。2000年第4四半期に大幅な赤字を計上したためリストラを実施したものの、今年の第1四半期で赤字はさらに拡大している。
また、転換社債の発行に依存してきた。そのため、新規資金調達の道も株価低落の影響で閉ざされている。
アマゾンの運転資本のマイナスがとりざたされており、今後の動向が注視される。
学生が始めたベンチャー企業で、90年代のアメリカンドリームを体現しているYahoo!は、広告収入がマイナスに転じたことがきっかけでCEOが退任した。広告収入に依存した売上は、2000年第4四半期の3億ドルから本年の第1四半期には、約半分程度まで落ちた。ネット広告企業であるYahoo!をいかに本格的なメディア企業につくり変えるかが新しいCEOに問われている。
ドットコム企業の優等生といわれたeBayは、今後もビジネスが拡大できるかが焦点になっている。伝統的な経営手法の良さを生かして着実に売上・利益を伸ばしてきたが、オークションという単一ポートフォリオでは企業成長に限界がある。そこで、ポートフォリオを広げるため、固定価格市場に参入し、先行優位企業が軒並み落ち込む中で、逃げていく顧客をとらえつつある。今後の市場に、どこまで食い込めるか見ものである。
世界のルーター市場を席巻しているCisco Systems(以下、シスコ)は、90年に上場して以来、初めて赤字に転落した。在庫処理のため、巨額の償却費を計上したためだが、背景には、需要が減退した時に部品の供給を抑制できなかったことがある。シスコは、サプライチェインマネジメントの優等生であるものの、リアルの世界の受発注に関する取引慣行を克服できなかった。今後の推進に興味をもっている。
米国のブロードバンド事業の動向を占ううえで注目されているAOLタイムワーナーは、ケーブル会社大手のタイムワーナーケーブルを持つと同時に、AOL、CNN、ワーナームービー等のコンテンツも豊富に揃えている。6部門中、堅調なのは、AOLとタイムワーナーケーブルである。Yahoo!の広告収入が減少している中で、AOLは2001年第1四半期の広告収入を前年同期比37%も伸ばしている。合併効果は未だ十分ではないが、今後、ニュース、娯楽映画、テレビ番組、音楽、出版などのコンテンツを活用して、どのようなビジネスモデルを作るかが注目される。
電子商取引は、世界的に着実に伸びてきた。インターネットが経済のプラットフォームになるという流れは不変だが、その中でのビジネスモデルや市場の選び方は非常に難しい。
日本のIT戦略を考える場合、長年にわたってできたITをめぐる環境や技術蓄積の格差をふまえ、米国のキャッチアップではなく、独自の道を模索すべきである。また、ベンチャー企業とベンチャー事業は違う。日本の場合、人・モノ・金・技術が大企業に偏在しているため、大企業がベンチャー事業に参入して、日本のIT戦略をリードすべきではないだろうか。米国の場合をみても、シリコンヴァレーはベンチャー企業が主体だが、米国全体を見れば、ベンチャー企業主体のところは少ない。