経団連くりっぷ No.151 (2001年7月12日)

貿易投資委員会総合政策部会(部会長 團野廣一氏)/6月22日

WTO新ラウンド立ち上げは世界経済の発展にとってきわめて重要


貿易投資委員会総合政策部会では、WTO新ラウンド交渉の立ち上げに向けた産業界の基本的立場について具体的な検討を行っている。その一環として、大妻女子大学の渡邊頼純教授より、WTO新ラウンド交渉の課題と展望などについて話をきいた。

○ 渡邊教授説明要旨

1.GATTの多角的貿易交渉

 GATT(貿易関税一般協定)時代には、8回にわたる多角的貿易交渉が行われた。第6回目のケネディ・ラウンドにおいて、鉱工業品に関する関税の35%一括引き下げが行われ、その次の東京ラウンドにおいては、関税に加えて、非関税障壁も取り扱われた。
 最後のウルグアイ・ラウンドでは、関税、非関税障壁に加えて、サービス貿易、知的財産権、投資関連措置といった新たな分野、さらに、発展途上国を説得するため、それまで先進国が反対してきた、農業、繊維といったセンシティブな分野も扱われた。最終的には、こうした協定がすべて一括受諾された他、紛争処理機能が強化されたWTOという常設の機関が設置された。

2.新ラウンド交渉の意義

11月にカタールでWTO閣僚会議が開催される。もしそこで新ラウンド交渉が立ち上がれば、

  1. 市場アクセスの改善、
  2. 投資や電子商取引等、貿易構造の変化に対応した新たなルールの策定、
  3. アンチダンピング等の既存のルールの改善・強化、
等の意義をもたらす。
 わが国にとって関心が高い項目は、すでに交渉が開始しているビルトインアジェンダ(サービス貿易、農業貿易)に加えて、鉱工業品の関税引き下げ、アンチダンピング、投資等である。この他、貿易と競争、貿易と環境、地域経済統合といった項目についても交渉が行われる可能性がある。
 新ラウンド交渉により、
  1. 貿易障壁の低減・撤廃によるビジネス環境の予測可能性の向上、
  2. 市場拡大による産業競争力の向上、消費者利益の増大、経済成長・繁栄の確保、
  3. 世界経済の均等な発展や信頼の醸成、持続的な成長の維持といったグローバルな利益の確保、
等の効果がもたらされると期待される。

3.今後の展望

 1999年末のシアトル閣僚会議が挫折した主な理由は、

  1. 米国のリーダーシップの欠如、
  2. 途上国の反発、
  3. NGOをはじめとする反グローバル化の動き、
であった。現在まで、日米欧加の四極による協力、途上国への支援の強化等により、新ラウンド交渉の立ち上げに向けた動きが活発化している。
 ただし、新ラウンド交渉が、わが国や欧州が望むような幅広い項目について扱う大きなパッケージとなるか、ビルトインアジェンダを中心とする市場アクセスに焦点を当てた小さなパッケージとなるかは未定である。
 日本としては、通商政策のグランドデザインを描いたうえで、国内政策と一体となった通商政策を展開していくべきであろう。


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