経団連くりっぷ No.152 (2001年7月26日)
貿易投資委員会(委員長:槙原 稔副会長)は、「WTO新ラウンド交渉立ち上げにあたっての基本的立場」と題する意見書を取りまとめ、7月17日の理事会の承認を得て公表した。以下は意見書の概要である。
- はじめに:新ラウンド交渉の立ち上げに向けて
わが国産業界は、欧米を始めとする諸外国の産業界とも連携を強化しつつ、本年11月に開催されるドーハ閣僚会議において、包括的なWTO新ラウンド交渉を立ち上げるよう求めていく。
- 新ラウンド交渉に対するわが国産業界の基本姿勢
- 交渉方式:
- できるだけ多くの加盟国の関心に応えることができるよう包括的ラウンドとすべき。交渉の方式は、交渉項目の全てを最後に一括して合意する一括受諾方式が最も望ましいが、場合によっては、複数国間協定とすることも否定すべきではない。
- 交渉期限:
- 3年程度で妥結することを目指すべき。
- 途上国への十分な配慮:
- 途上国が多角的貿易体制の恩恵を充分に享受出来るよう配慮することも重要。途上国の国内制度の整備や人材育成を通じたキャパシティ・ビルディングを交渉に組み込んでいくことが望まれる。
- わが国産業界の7つの優先交渉項目
- ビルトインアジェンダ(サービス貿易、農業貿易)の新ラウンドへの統合
- 鉱工業品の関税引き下げ
- 国際投資ルールの構築
- アンチダンピング協定の見直し
- 電子商取引の発展の促進
- 知的財産権の保護強化
- 貿易円滑化の促進
の7項目が新ラウンド交渉のアジェンダとして盛り込まれることを強く求める。
- ビルトインアジェンダ:
- サービス貿易については、新ラウンドの立ち上げによってさらに交渉が促進されることを望む。農業貿易については、自由貿易体制を推進する日本を含む先進国は、市場開放に向けて積極的に取り組むべき。
- 鉱工業品の関税引き下げ:
- 自由な貿易を通じた効率的な資源配分が可能となるよう、鉱工業関税の大幅削減を強く求める。
- 投資:
- 少なくとも、投資保護、投資関連規制の透明性、最恵国待遇および内国民待遇の確保、市場アクセスの改善、紛争処理手続きの整備等についてルールの整備を行うことが必要。
- アンチダンピング:
- 一部の国による保護主義的な濫用を阻止するため、アンチダンピング協定の見直しを通じてルールを明確化することが望まれる。具体的には、ダンピングの決定、損害の決定、調査手続、価格約束、AD税の賦課および徴収、AD措置のレビュー関係、紛争解決に関する条項等を見直すべき。
- 電子商取引:
- 民間主導による世界的な電子商取引の発展に貢献できるよう、中長期的な観点に立って専門的な作業が行えるようにタスクフォースを設置すべき。同タスクフォースでは、電子商取引への関税不賦課の恒久化等の分野横断的な課題についても検討を促進していくことが重要。
- 知的財産権:
- 途上国や後発開発途上国がTRIPSの経過期間を遵守することを強く求める。
- 貿易円滑化:
- 加盟国が貿易円滑化に関する基本的ルールの策定作業の開始について加盟国が合意することを強く望む。
- その他の重要項目
わが国産業界の関心は必ずしも高くはないものの、欧米などの加盟国が関心を有しているため議論を避けては通れない項目(貿易と環境、貿易と競争政策、政府調達、貿易と労働)に対するとりあえずの基本的立場を示している。
- 貿易と環境:
- WTO協定と貿易措置を含む多国間環境協定の整合性について引き続き議論を行うべき。
- 貿易と労働:
- 労働問題に一義的な責任を負うILOが主体となり議論すべき。
- おわりに
新ラウンドを成功させるためには、先進国だけでなく、後発開発途上国を中心とする途上国、市場経済移行国等、WTOを構成する全ての加盟国がその成果を享受するようなバランスの取れた新ラウンドの実現に向け、関係各国が協力していくことを強く希望する。また、経済界としても、その実現に向けて鋭意、協力していく。
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