経団連くりっぷ No.152 (2001年7月26日)

第572回常任理事会/7月3日

司法制度改革審議会意見書と今後の課題


わが国経済社会において、構造改革の推進が喫緊の課題となっているが、その中で司法制度改革は、透明なルールと自己責任原則に則った経済社会を実現するうえで極めて重要である。そこで、司法制度改革審議会の竹下守夫会長代理(駿河台大学長)より、司法制度改革審議会意見書の概要と今後の課題について説明をきいた。

○ 竹下会長代理説明要旨

  1. 司法制度改革の基本理念と方向
  2. 今般の司法制度改革は、国際化、情報化、多様化という新しい時代環境の中で、憲法の定める法の支配をわが国社会に浸透させ、個人の尊厳、国民主権を真の意味で実現させることを理念としている。具体的には、司法制度自体のあり方とその担い手である法曹のあり方を問い直し、同時に司法制度の意義に関する国民の理解を高め、より確かな国民的基盤の確立を目指している。

  3. 民事司法制度の改革
  4. 第1は、民事裁判の充実・迅速化である。各種調査において、訴訟に時間がかかるということは、訴訟利用の最大の阻害要因とされている。最終意見書では、民事訴訟事件の審理期間を概ね現在の半分とすることを目標として掲げた。そのためには、審理の計画的な推進、証拠収集手続きの拡充、人的基盤の拡充が必要である。特に人的基盤については、弁護士の執務態勢の強化、裁判官等の大幅増加が求められる。
    第2は、専門的知見を要する事件への対応強化である。現在、わが国社会ではさまざまな分野で専門化が進み、紛争においても、医療、建築瑕疵に係わるもの等特殊な事件が増加している。このような訴訟を迅速かつ適確に解決するためには、専門家の適切な協力の確保が必要であり、専門委員制度の導入、鑑定制度の充実を提言した。
    第3は、知的財産権関係事件への総合的な対応強化である。各国は、各国が知的財産権の保全を図るべく、知的財産権事件の迅速かつ的確な処理を国際的な戦略の一部として取り組んでいる。わが国でも、東京・大阪両地方裁判所にある知的財産専門部を質量ともに強化し、実質的に特許裁判所化するとともに、弁理士の専門性の活用や、ADR(裁判外紛争解決手段)の拡充・活性化を進めることを提言している。
    第4は、民事執行制度の強化である。権利実現の実効性確保の観点から、法制審議会で検討を開始したところである。
    第5は、国際化への対応の推進である。経済活動のグローバル化や国境を越えた電子商取引の急速な拡大等に伴い、国際的な民事紛争の迅速な解決が重要な課題となってきている。民事司法および法曹の国際化、発展途上国に対する法整備支援の推進等について提言をしている。

  5. 司法制度を支える法曹のあり方
  6. 司法制度を活かすのは、言うまでもなく人であり、最終意見書では、法曹人口の大幅増加を提言した。具体的には、現行の司法試験の下で平成16年には合格者を1,500人程度にする。さらに法科大学院を含む新たな法曹養成制度の整備状況を見ながら、平成22年頃には合格者3,000人を目指す。この場合、平成30年頃には実働法曹人口は5万人程度になると推計される。法曹人口の増加と同時に質の確保と一層の向上を目指す必要がある。最終意見書では、大学における法学教育、司法試験、司法研修所における司法修習を有機的に連携させたプロセスとしての法曹養成制度を新たに整備することを提言している。その中核として、法科大学院の設置を求めている。その目的は、司法が21世紀に期待される役割を果たすための人的基盤の確立である。豊かな人間性の涵養、批判的・創造的な思考力・法的分析力、法曹としての責任感・倫理観の修得等のほか、養成にあたっては、先端的法領域、外国法等も重視し、国際的競争力のある法曹の育成をも目指す。入学者選抜をはじめ、全ての点で、開放性、公平性、多様性の確保を図るべく努める。
    次に、弁護士制度の改革について、国民の多様なニーズに対応すべく、弁護士の活動領域の拡大という観点から、弁護士の兼職、営業等を制限している弁護士法第30条の改正を提言した。同時に、弁護士報酬の透明化・合理化等弁護士へのアクセスの拡充、司法書士等への訴訟代理権の付与等、隣接法律専門職種の活用を求めている。
    さらに、裁判官制度の改革について、より実質的に国民の求める裁判官を得るには何を改革すべきかという観点から、判事補制度の存続を前提に、21世紀のわが国司法を担う質の高い裁判官を安定的に確保し、これに独立性を持って職権を行使させるための改革を提言した。まず、判事の供給源の多様化・多元化の観点から、判事となる者が、多様で豊かな知識、経験等を備えることを制度的に担保する仕組みを整備するとともに、弁護士からの任官を推進すべきとしている。具体的には、判事補の他職(法律事務所、企業、行政官庁等)経験の確保、特例判事補の段階的解消、最高裁と日弁連による弁護士任官推進のための体制整備等である。

  7. 国民的基盤の確立
  8. 一般国民の刑事訴訟手続きへの新たな参加制度の導入を指摘したが、これは一般国民と裁判官との法的コミュニケーションを通じ、国民の健全な良識が裁判内容に反映されることによって、司法の国民的基盤が確立されることを期待するものである。具体的には、ある一定の重大な犯罪において、裁判員として参加をした国民が裁判官と共に裁判を行うことを提言している。

  9. 今後の対応
  10. 最終意見書では、今後司法改革を進めるにあたって、内閣に強力な推進体制を整備し、一体的かつ集中的に取り組むよう要望するとともに、財政的措置についても特段の配慮を払うことを求めた。これに対し、内閣は6月15日に対処方針を閣議決定するとともに政府声明を発表して、最大限本意見書を尊重し、速やかに推進作業に着手、3年以内に関連法案の整備を目指すとした。司法制度改革はこれからが本番になる。経済界におかれても引き続き、支援をお願いしたい。


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