経団連くりっぷ No.154 (2001年9月13日)

日本・香港経済委員会(委員長 梅田貞夫氏)/7月24日

香港は今後も貿易の拠点となる


日本・香港経済委員会では2001年度定時総会を開催し、2000年度事業報告・収支決算、2001年度事業計画・収支予算を審議し、承認した。当日は、議案審議に先立ち、東京外国語大学の沢田ゆかり助教授から「華南におけるIT産業の集積と香港の役割」について説明をきいた。

  1. 沢田助教授説明要旨
    1. 香港に近接する広東省の華南(珠江デルタ)地域にIT産業が集積し、パソコン関連製品の製造や組立ての世界的な拠点となっている。その主役は台湾系企業である。製造面では香港企業の影は非常に薄い。

    2. 華南地域と並び、最近では上海や浙江省・江蘇省など華東地域へのIT産業集積も進んできている。華東地域には製造業に必要なインフラが備わっており、優秀な技術者が豊富で、かつ定着率も高い。華東地域へは大規模な投資を行って、ハイエンドな製品を製造し、一方ローエンドで低価格の製品や輸出向け製品は、製造コストの低い華南地域で行うというすみ分けが定着しつつある。

    3. 中国大陸に進出している台湾系企業は、これまで香港に本社機能を置き、金融や貿易業務を行ってきた。返還後はそのメリットが低下したため、現在では中米のケイマン諸島やバージン諸島にペーパーカンパニーを登録し、そこから投資を行うようになってきている。

    4. 香港は昨年(2000年)、輸出を中心とする外需主導により景気を回復させたが、小売や不動産などの内需はまだ弱く、1997年以降あまり回復していない。そのため、失業率が高止まりしており、1999年の6%台よりは低いものの、2001年に入っても4.6%程度の失業率で推移している。新たな貧困層に対する福祉が必要となっている。福祉への支出がかさんでいることも、香港の経済成長が伸び悩んでいる大きな要因である。そうした中で、香港はITに期待を寄せ、一部の企業はIT関連事業への参入で急速に成長を遂げた。しかし最近、そうした企業の株価が暴落している。

    5. 香港政府はサイバーポート計画を打ち出し、香港をアジアにおけるITの中心にしようとしたり、中国大陸などから積極的に人材を受入れるなどして競争力を強化しようとしている。しかし、こうした香港政府の対応も、レッセ・フェールの伝統に縛られて本格的に支援するところまではいっていない。香港がITをうまく活用し、不動産、貿易、金融などのオールド・エコノミーを活性化することが望まれる。

  2. 質疑応答(要旨)
  3. 経団連側:
    香港は従来、中国へのゲートウェイとされてきた。日本や欧米企業が中国大陸に進出する場合、依然として香港を利用する価値があるのではないか。

    沢田助教授:
    確かにその通りである。中国のWTO加盟で、香港の仲介機能のパイは拡大するだろう。

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