経団連くりっぷ No.155 (2001年9月27日)

OECD諮問委員会(委員長 生田正治氏)/9月12日

ますます高まる、OECDに対する民間企業への関与の重要性


1995年より6年間にわたりOECD科学技術産業局長を務められた根津利三郎氏(富士通総研常務理事)と、OECDに対する産業界の公式の諮問機関であるBIAC(Business and Industry Advisory Committee to the OECD)事務総長のダグラス・ワース氏を迎えて、最近のOECDおよびBIACの活動をめぐる懇談会を開催した。

  1. 根津 前OECD科学技術産業局長説明要旨
    1. OECD成長プロジェクト
    2. OECDの役割は、加盟30ヵ国の政策を比較検討することにより、良い政策を各国に推奨するとともに、問題点を洗い出して是正策を提言することにある。
      OECD成長プロジェクトは、1990年代を通じて、米国、カナダ、英国、オーストラリアといった国が高成長を達成したのに対して、日本、ドイツ、フランス、イタリアが低成長となり、二極化した加盟国経済のパフォーマンスについて検討を行った。

    3. ITの重要性
    4. 成長プロジェクトでは、各国経済のIT利用に関して、さまざまな指標を検討した。例えば、設備投資に占めるIT関連投資の割合は、米国が約32%なのに対して日本は約18%である。また、人口1,000人当たりのインターネット・ホスト数やウェブサイト数は、米国が圧倒的に多いのに対して、日本は加盟国の中でもかなり下位となっている。
      IT利用やインターネットのアクセスコストと全要素生産性には明らかな相関があり、日本はIT利用に失敗したために高い生産性の向上を達成できなかったと思われる。

    5. 科学と産業のリンケージ
    6. 日本は、科学分野でのパフォーマンスも悪い。国民100万人当たりの科学論文数をみると、OECD平均より低い。また、相対的に特化している分野も、米国がバイオ工学やコンピュータ科学といったニュー・サイエンス分野に特化しているのに対して、材料化学や原子力工学といったオールド・サイエンス分野となっている。
      日本は、科学界と産業界のリンケージも不十分で、国の研究開発資金に対するベンチャー・ビジネスの起業の割合がきわめて低い。さらに日本では、サービス分野、環境関連分野および健康関連分野での研究開発、中小企業の研究開発投資等が国際的にきわめて低い。

    7. 日本経済への処方箋
    8. 今後、日本経済が高い生産性の向上を達成するためには、

      1. 企業システムの変革を伴うITの利用、
      2. インターネットのアクセスコストの削減、ブロードバンドの整備、
      3. 科学界と産業界の連携の強化、
      4. 新たな分野への研究開発投資の拡大、
      5. ビジネスがリスクを取れるような資本市場の整備、
      等が必要になるだろう。

  2. ワースBIAC事務総長説明要旨
    1. OECDとビジネス界
    2. ビジネス界は、現在の法律・規制をそのまま受け入れる必要はない。むしろ、企業は、政府よりも先行している経済の先端として、政府がより良い決定を行えるように意見を伝える権利がある。そのためには、BIACの活動に、世界中から、より多くの企業が参加することが不可欠である。
      過去数年間、OECDは、ビジネス界からのアクセスを拡大しようとしている。例えば、科学技術産業委員会、税制委員会等では、OECDとBIACの定期的な会合により、ビジネスからのインプットが、OECDの研究成果に、より反映されるようになっている。

    3. 日本企業の役割
    4. 日本企業は、バブル崩壊後、新たなビジネス・モデルへの挑戦を躊躇しているように見えるが、生産性を向上させるためのファンダメンタルズは強く、OECDが日本企業から学ぶべき点は依然として多い。
      日本企業は、欧米企業と同じように、BIACへの参加を通じて、積極的に意見を発信していくべきである。

    5. BIACからのインプット
    6. BIACからOECDへインプットしたことで、加盟国政府の政策に影響を与えた例は多い。
      例えば、多国籍企業にとって多大な負担となっていた、国境を越える資本に対する二重課税の問題について、BIACからの積極的な働き掛けにより、OECDはモデル租税条約を制定した。このモデル条約は、企業負担を大幅に軽減するものであり、BIACは加盟国政府に対して、このモデルに沿った政策を取るよう強く求めてきた。日米租税条約が改訂に向けて議論を始めたのも、その一貫であると考えている。
      また、非常に厳しく、ハイテク企業を中心に批判が多かった米国の安全保障輸出管理政策についても、あるドイツ企業からの問題提起がBIACを通じてOECDへの提言となった。最終的には、米国政府に対する圧力となって、米国は、より緩やかな政策へと変更を余儀なくされた。

    7. NGOとビジネス
    8. 近年、反グローバル化を標榜するNGOの活動が活発化している。しかし、市場経済という基盤が失われれば、世界経済にとってこれ以上の打撃はない。
      ビジネス界は、弁護士がいない被告席で裁かれないためにも、積極的に市場経済の重要性を世間に伝えていかねばならない。

  3. 質疑応答(要旨)
  4. 経団連側:
    情報通信産業では、今後、コンテンツの重要性が高まってくると考えているが、展望を聞きたい。

    根津前局長:
    コンテンツについて、BtoB(企業対企業)とBtoC(企業対消費者)に分けた場合、今後、映画、アニメーション、ゲームといった分野でのBtoCが伸びてくる可能性が高く、日本企業は競争優位を発揮できるのではないかと考えている。

日本からは、経団連がOECD諮問委員会を通じて、BIACの活動に積極的に参加しております。
入会にご関心のある方は、下記までご連絡下さい。

国際経済本部 白戸
Email : biacj@keidanren.or.jp

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