経団連くりっぷ No.155 (2001年9月27日)

中国のWTO加盟に関する懇談会(司会 團野廣一氏)/9月4日

中国は、WTO加盟により産業構造が大きく変化


貿易投資委員会総合政策部会と中国委員会企画部会は共同で標記懇談会を開催し、東京大学社会科学研究所の丸川知雄 助教授より、中国経済の現状、WTO加盟による中国経済および日本経済への影響等を中心に話をきくとともに懇談した。

○ 丸川助教授説明要旨

  1. 中国経済の二つの側面
  2. 中国経済には、強い面と弱い面がある。強い中国としては、

    1. 年間400億ドル近い貿易黒字、
    2. 1,650億ドルの潤沢な外貨準備、
    3. GDP比約40%の高い貯蓄率、
    4. 年間400億ドル近い海外直接投資、
    5. アジア通貨危機の影響を受けず安定した為替、
    等、基礎的経済データが非常に強いことがある。また、民間企業や外資系企業の活力がある。
    他方、弱い中国としては、国有企業の経営不振がある。また失業率は公式には3.1%であるが、準失業者を含めると、おそらく8%近い。また、農業分野はコストが高く脆弱である。さらに、政府は基本的に国有企業にしか目がいっていない。

  3. 中国のWTO加盟
  4. WTO加盟によって、中国は、関税の削減・撤廃、非関税障壁の撤廃、サービス貿易の自由化等を行うことになる。
    現在の保護水準とWTO加盟に際して米国やEUに対して中国が行った約束の水準を比較したところ、自動車・同部品、農業、小売・卸売、産業機械、銀行・保険等の産業では外国企業との激しい競争に見舞われる一方、電子・電機、繊維等の産業では成長が加速すると見込まれている。特に繊維産業については、2005年に多数国間繊維取決め(MFA)が撤廃されることとなっているため、輸出の大幅な増加が予想される。
    マクロ経済的な効果についてはさまざまな試算があるが、全体としてプラスになる点は共通している。他方、農業分野では重大な被害を受け、少なくとも960万人の農民が他の産業への移動を余儀なくされるだろう。これに対して、最も大きな伸びが期待される繊維・アパレル産業では、540万人の雇用が創出されると見込まれる。

  5. 中国WTO加盟の日本経済への影響
  6. 日本にとっては、全体的に中国への中間財輸出が増加する一方、化学製品、一般機械、電子・電機、輸送機械では中国の輸出増加が見込めるのではないか。
    他方、日本企業の中国に対する評価は二極化している。高い評価をしている企業は、主に中国で生産して日本や第三国に輸出している場合であり、低い評価をしている企業は、主に中国で生産して中国国内市場で販売している場合である。今後は、日本企業の核心である、高度な機械加工、精密加工を必要とする分野で生き残りを図るべきであろう。
    今後の中国経済の展望としては、浙江省の化繊織物、広東省の白物家電、電子等の産業集積の一層の進展、民間企業のさらなる台頭が予想される。


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