経団連くりっぷ No.156 (2001年10月11日)

なびげーたー

中国への投資シフトを危惧するアセアン諸国

国際協力本部長 工藤高史


生産拠点を中国に移す企業が増え、昨年の中国の外資受入れ額は620億ドルを超えた。アセアン諸国は勢いを増す中国への投資シフトに焦躁感を抱いている。

  1. アセアン諸国は投資担当大臣会合(AIAカウンシル)を毎年開催し、域内の投資促進や自由化の問題について議論している。本年の会合は9月中旬にベトナムの首都ハノイで開かれた。この会合に投資国の民間の声を反映させ、より効果的な投資促進策を検討しようとの趣旨で、日本の経済界と大臣とのセッションが初めて設けられた。
    アセアン側はベトナムのコアン商業相を議長として、マレーシアのラフィーダ通商産業相、シンガポールのジョージ・ヨー貿易産業相らが出席、日本側からは、自動車と電機・電子の業界からの参加を望むアセアン側の意向を受け、日本自動車工業会の吉岡理事と電子情報技術産業協会の塚本専務理事、そして私も参加する機会を得た。

  2. アセアン側の関心は、欧米企業のみならず日本企業も対中投資拡大に向うのではないか、特に中国のWTO加盟がこれに拍車をかけるのではないかという点にあった。確かに日経リサーチなどの調査によれば、海外進出を計画中の日本企業の約7割が進出先として中国を挙げている。他方で日本企業の対アセアン投資は伸び悩んでいる。
    こうした実情に鑑み、日本側から、中国との投資誘致競争は一層激化するのでアセアン各国は早急に魅力ある投資環境の整備に努める必要があると指摘し、具体的には不良債権の処理など経済改革を進め、市場の信頼回復に努力すること、外資政策は政権が交替しても一貫性を維持し、法令の朝令暮改は回避すべきこと、投資関連の窓口の一元化や手続きの簡素化・迅速化などを要望した。また、巨大な中国市場に対抗するためにアセアンの地域経済統合(AFTA)を早期に実現すべきだとのメッセージを送った。

  3. これを受けてラフィーダ大臣は、中国への投資増大により、その製品がアセアン市場に流れ込むと予想され、中国に投資も市場も奪われてしまうとの危惧の念を表し、アセアンが5億人の低廉かつ熟練した労働力を有することに改めて注目してほしいと訴えた。またジョージ・ヨー大臣は、日本との間で経済連携協定を進めているが、いっそアセアンと日本との自由貿易協定を検討してはどうかと、一歩踏み込んだ発言をしていた。アセアン諸国は、際立って経済が好調な中国に少なからず苛立っているとの印象を得た。

  4. こうした苛立ちに応え私から、今井会長が本年4月のアジア訪問時に行った発言を紹介し、「日本企業が先のアジア通貨・金融危機に際しても現地に止まり、事業を継続し、できる限り雇用を維持してきたことは日本のアセアンへのコミットメントの証左であり、今後もこの姿勢は変わらない」、アセアンは日本にとってこれまでも、そしてこれからも重要なパートナーであると強調した。
    アセアンが中国に対して比較優位の投資先にいかに改善するか、喫緊の課題である。


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