経団連くりっぷ No.156 (2001年10月11日)

統計制度委員会(委員長 井口武雄氏)/9月17日

GDP統計の現状と改善の方向性

−統計審議会 竹内会長よりきく


統計制度委員会では、統計審議会の竹内啓会長(明治学院大学教授)を招き、GDP統計の現状と改善の方向性について説明をきくとともに意見交換を行った。統計制度委員会としては、引き続きGDP統計について検討を深め、来春を目途に提言を取りまとめることとしている。

○ 竹内会長説明要旨

  1. 景気とGDPの関係
  2. 「景気の実体はGDPの動きである」との考え方があるが、景気の善し悪しは必ずしもGDP成長率とは一致しない。景気は世の中の雰囲気や人々の気分に左右される。また、GDP統計がいわば事後決算であり、過去を表す一方で、景気は「予測を含んだ現在」を表すものである。この点でもGDPの動きと景気は異質のものである。さらに、景気は大体において「名目値」の問題である。デフレーターで実質化した「実質GDP」は、現実的に実感されない。

  3. GDP批判に対する考え方
  4. 従って、「GDPと景気の実感が乖離している」との批判があるものの、そもそもやむを得ない面がある。
    「GDPの発表が遅い」との批判については、確かに改善の余地はある。一方で、速報性を優先させると統計の精度を犠牲にしなければならないという問題もある。GDP統計が経済運営や企業の戦略などで重要視されているというが、本当に公表を早期化する必要性があるのか疑問に思う。
    速報値(QE)から確報値への改定幅が大きいことについては、内閣府における速報値の推計方法を見直す余地がある一方で、統計ユーザー側が速報値をあくまで「予測値」と見なして利用することも重要である。
    GDPの基礎統計となる家計調査などの精度に対する批判もあるが、サンプル数の問題など予算面の制約上、やむを得ない点があることも理解しなければいけない。
    「GDP統計の推計方法が不明確である」との批判も多いが、家賃の帰属計算など本質的にマニュアル化しがたい面があることを理解しなければいけない。

  5. 景気予測のための統計利用法と今後求められる統計
  6. このように、短期経済予測のためにGDP統計を使うことには限界があり、日銀短観や内閣府の景気ウォッチャー調査を併せて利用するなど、ユーザー側の工夫が必要である。
    今、最も必要とされる統計はストック統計である。特に1970年に調査を中止した国富統計の再実施が求められる。現在の民間企業資本ストック統計は、フローの新規設備投資額を30年間積み重ねたものであり、実際と大きく異なっている懸念がある。また、不良債権の問題でも実物資産統計がないために十分な把握ができない。
    また、雇用関連統計については、企業側からみた情報が不十分であり、今後充実させるべきである。さらに、公共投資がいつ何に対して行われたかなど、政府支出に関する統計の整備も必要である。


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