経団連くりっぷ No.157 (2001年10月25日)

なびげーたー

要望を門前払いする行政の行動様式を変えるには…

常務理事 立花 宏


規制改革要望を門前払いする例が後を絶たない。新事業に取り組む企業や個人のイノベーティブな発想が尊重されるよう、行政の思考・行動様式の変革は急務ではないか。

  1. 経団連では、さる10月1日に本年度の規制改革要望を取りまとめ、担当の大賀副会長より政府の総合規制改革会議へ説明・提出するとともに、10月3日には小泉総理と直接面談し、経済活性化の見地から経済効果の大きい具体事例を挙げて総理のリーダーシップによる改革の加速化を要請した。
    このほか、石原 規制改革担当大臣、自民党のe-Japan特命委員会に対しても、情報通信分野における規制改革の実現を働きかけている。

  2. そうした取組みを進めている矢先、会員企業の方が経団連要望に盛り込まれた案件の扱いをめぐり、内々の相談にみえた。
    話を伺ってみると、経団連が改革要望を公表した後、会員企業の担当者が所管省庁の担当官を訪ね要望の趣旨を説明し、検討の促進方を要請したところ、担当官から、「経団連経由で要望を提出するのは心外であり、要望を撤回すべきだ。今後、当該企業との話し合いは再考させてもらう。」と通告され、企業としては金縛りの状況にある、とのことだった。

  3. 実は一昨年も自賠責の政府強制再保険の廃止をめぐり、ほぼこれと同じようなやり取りが官と民との間でみられたが、企業の担当者が要望実現の入口段階で行政との折衝に神経をすり減らすケースが少なくないのが実態である。
    国民に保証された権利の一つとして請願権があるが、これを規定した憲法16条では、「何人も・・・法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。」としている。前述の行政の対応はこうした憲法の条文趣旨を踏みにじるものではないか。

  4. はじめから民間の要望、提案を否定してかかり、突っ込まれると民間の事実誤認と言い切って自らの立場、規制を守ろうとする行政の意識、行動様式は、わが国の場合、省庁横断的に、いわば通奏低音のように定着しているのではないか。こうした行政の対応が企業や個人のイノベーティブな発想を妨げ、新事業の開拓意欲を殺いでいる。

  5. 規制の制定・改廃について昨年から閣議決定によりパブリック・コメント制度が導入されたが、民間からみると、単に行政のアリバイづくりに使われているだけだとの批判が絶えない。そもそもの制度の違いがあるとはいえ、米国では、パブリックコメントを尊重しないと裁判で行政が負けるケースが多いので、民間のコメントが採用されるケースが多いとも聞く。経団連としても、行政と民間との関係を正す見地から、新たにどんな改革・仕組みが必要なのか、行革推進委員会において目下検討を続けており、できるだけ早期に見解を取りまとめていきたい。


くりっぷ No.157 目次日本語のホームページ