経団連くりっぷ No.157 (2001年10月25日)

経済政策委員会企画部会・財政制度委員会企画部会 合同会合(司会 摩尼義晴 経済政策委員会企画部会長)/10月2日

今後の財政構造改革の進め方

−東京大学 井堀教授よりきく


小泉政権が掲げる構造改革の柱の1つ、財政構造改革については、(1)平成14年度予算における国債発行額を30兆円以下とする、(2)中期的にプライマリー・バランスの黒字化を目指す、などの目標が打ち出されている。経済政策委員会企画部会と財政制度委員会企画部会は合同会合を開催し、これらの目標を達成するための方策について、東京大学の井堀利宏教授よりきいた。

○ 井堀教授説明要旨

  1. 国民の将来不安が高まっている現在、財政政策による消費、投資の刺激効果は小さい。金融政策も含め景気回復の特効薬はなく、政策対応は「痛み」を緩和する方策に限定すべきである。むしろ、中長期的な不安を取り除くための制度改革が重要となる。

  2. 財政構造改革を先送りすれば、財政事情のさらなる悪化は避けられない。仮に、今後の「利子率マイナス名目成長率」を2%とすれば、政府債務残高対GDP比を一定水準にとどめる(財政破綻を回避する)ためには、10年後のプライマリー・バランスを3.5%の黒字まで改善させる必要がある。

  3. 今後の名目成長率を2%と仮定すれば、歳出削減のみによってプライマリー・バランス黒字を達成するためには、公共事業費を毎年10%ずつ削減し(10年後の公共事業費は現在の3分の1程度に)、社会保障費も現在の水準に固定するなど、抜本的な歳出見直しが必要となる。一方、消費税率を毎年1%ずつ引き上げる場合は(今後8年間。8年後の消費税率は13%に)、公共事業費を5%ずつ削減することなどで、10年後にはプライマリー・バランス黒字を3%台まで改善できる。この場合、「利子率マイナス成長率」が2%であれば、政府債務残高対GDP比を一定水準にとどめることができる。

  4. 成長率がより低い場合、財政再建は一層困難となる。名目成長率が0%の場合、歳出抑制のみでプライマリー・バランスを黒字化することは、ほぼ不可能である。プライマリー・バランスを3%台の黒字まで改善するためには、公共事業費を毎年10%ずつ削減するとともに、消費税率を段階的に15%程度まで引き上げなければならない。

  5. 消費税率引き上げは、家計の可処分所得を減少させる反面、税率引き上げ前の消費拡大が期待できる。また財政再建につながる増税であれば、「公債の中立命題」から、消費はそれほど減少しないと考えられる。

  6. 少子高齢化が進む中、社会保障制度の改革も避けられない。賦課方式の年金制度は維持できず、これから公的年金に加入する世代は積立方式とすべきだ。問題は、すでに年金に加入している世代の、積立方式への移行に伴う「二重の負担」だが、相対的に得をしている現在の高齢層への給付を削減する一方、1960年代以降生まれの世代が、積立方式が適用される世代(今後の年金に加入する世代)と比べて不利にならないよう配慮し、世代間の公平を確保する必要がある。


くりっぷ No.157 目次日本語のホームページ