経団連くりっぷ No.158 (2001年11月8日)

経団連意見書/10月16日

「国際競争力強化に向けた産学官連携の推進」を公表


経団連では、10月11日、産業技術委員会(共同委員長:庄山悦彦氏・北城恪太郎氏)を開催し、国際競争力強化の観点から標記提言を取りまとめ、10月16日の理事会における審議を経て、政府、関係省庁、大学等に建議した。以下は提言の概要である。

  1. 産学官連携に対する産業界の考え方
  2. 米国では、近年、情報技術やバイオテクノロジー等の分野で、大学の研究が産学連携を通じて実用化に結びつき、国の産業競争力の向上に大きく貢献している。一方、わが国では、産学官の連携が必ずしも十分に行われておらず、これが日米間の産業競争力格差の大きな要因となっている。近年、わが国の企業にも、従来からの自前主義から脱却し、研究開発の一部を大学等へ委託し、国内外を問わず世界中の大学から実用化に向けたシーズを積極的に探す傾向が見られる。また、意欲と実力のある大学の中には、少ないながらも産学官連携に積極的に取り組んでいる事例もある。国内の大学等が世界最高水準の研究を増やすとともに、大学等における産学連携への環境を整備すれば、わが国においても米国と同様の好循環をつくり出すことが可能である。

  3. 産学官連携を推進する上での課題
    −「産学官連携に関するアンケート調査結果」
    1. わが国大学と企業との産学連携の現状
    2. 産学官連携推進部会がメンバー企業を対象として実施したアンケート調査(本年8月、回答総数25社)によると、すべての企業において件数では国内の大学との連携が海外との大学との連携を上回っているが、共同研究・委託研究の1件当りの金額は海外の大学との連携の方が大きいという結果が出ている。これは、わが国の企業が海外の大学と連携を行う場合には、世界最高水準の研究開発成果や特許の活用という目的が明確で、それに相応しい規模の投資を行っているからと思われる。
      一方、わが国の大学に対しては、小規模の投資が中心であり、その目的も明確でなく、その多くは、人材採用等を目的とした奨学寄付金のような契約によらない形態が多い。わが国の企業と日本の大学との連携が本格的なシステムとして構築されるためには、大学と企業という組織間の契約に基づく、共同・受託研究等へと移行すべきである。

    3. 産学官連携における失敗と成功の要因
    4. 同アンケート調査で、大学等の連携で失敗した要因を尋ねたところ、

      1. 成果の取扱いが不明確、
      2. アイデアどまりで実用化に耐えられない、
      3. 目的が不明確、
      といった回答が大半を占め、シーズとニーズの合致が見られなかった。また、大学側(研究者、事務部門)が、契約等の手続きを雑務として厭う傾向も指摘された。対象としては、わが国の大学との事例が大半を占めており、わが国の大学自体が産学官連携について魅力を感じ、積極的に大学自らが取り組むようなシステムになっていないことが読みとれる。
      一方、成功事例については、海外の大学との連携の大半および国内の一部特定の大学との連携について回答があった。成功の要因としては、
      1. 目標の明確な設定等のテーマの合致が大きく、大学が連携を良い意味でビジネスと捉え、顧客ニーズに応える提案等を行っていることが評価されている。また、
      2. 人材交流、
      3. 世界トップ水準の研究・情報内容、
      4. 成果の取扱いについての明確な契約意識、
      5. 大学内の幅広い協力体制、
      6. リエゾンオフィス等の事務部門の協力、
      があげられており、大学自らが産学連携に強いインセンティブを持っていることがわかる。

    5. 海外の大学が産学官連携で優れている点
    6. 海外の大学と国内の大学の比較も行ったが、

      1. 企業ニーズを踏まえた提案、
      2. 大学が法人格を持ち、責任ある契約を柔軟に締結できること、
      3. 事務部門や他学部の教授等の学内における横断的協力体制の面で、海外の大学が優れている、
      と回答を得た。海外の大学との産学連携では、大学の組織体としての活動および意識の高さが、産学官連携を推進する際の大きな力となっている。

  4. 産学官連携を推進する上での具体策について
    〜意欲と実力のある大学との産学連携を進め、成功事例をつくりだすために〜
  5. 具体的事例によって浮き彫りになった産学官連携を推進する上での課題を踏まえ、本提言では、産学官連携の推進策として、

    1. 産学官連携が評価されるシステムの構築、
    2. 産学官の人材交流の活性化、
    3. 産学官の相互理解の促進とインターフェースの充実、
    4. 世界最高水準のシーズを創出できる大学のあり方、
    の4テーマをあげている。これらの4テーマにかかわる具体策は相互に連関しており、また、現在検討中の国立大学の独立法人化の結果次第で大幅に解決される課題もある。従って、独立法人化の検討を急ぐとともに、独立法人化を待たずにできる改革は、スケジュールを示して、先取りして行うべきである。

    1. 産学官連携が評価されるシステムの構築
    2. 大学における実用化につながる研究分野(目的基礎・応用技術)において、大学、教員等が自ら積極的に産学官連携に取り組むためには、大学、教員等の主要業務の一つとして産学官連携を加え、産学官連携に積極的に取り組む教員等も評価・賞賛されるよう、大学教員の業績評価へ産学連携を追加するなど、インセンティブを高めるための制度等を導入することが重要である。また、成功モデルの提示等の産業界の行動や、産学連携を考慮した競争的資金の配分、産学官連携の成功例の表彰等の政府による支援制度を通じ、そのインセンティブが実効ある形で機能するよう取組みを強化する必要がある。

    3. 産学官の人材交流の活性化
    4. 企業と大学のお互いの文化への深い理解に基づいたシーズとニーズのマッチングのためには、産学官を跨ぐ人材交流が重要である。そこで、教授の選抜における公募制の活用や、任期付任用の拡大による民間から大学への人材交流や教員の兼業・休職の自由化による大学から民間への人材交流を活性化するべきである。

    5. 産学官の相互理解の促進とインターフェースの充実
    6. 企業と大学の相互理解促進の場を構築すべきであり、本年11月の「産学官連携サミット」の開催を契機に、産学官の対話がさまざまな場面で継続され、目的意識の共有やテーマ設定に向けて継続的な対話が進むことが期待される。また、インターフェースを充実するためには、大学における企業からの窓口の一本化と学内協力体制の構築、大学研究員の発明成果の大学への帰属等の知的財産権の扱い、柔軟かつ明確な契約の締結などが重要である。

    7. 世界最高水準のシーズ創出ができる大学のあり方
    8. 以上3つのテーマを進めていくにあたり、国立大学のトップがリーダシップを持つ経営組織体としての特色ある大学づくりが欠かせない。そのためには、国立大学が独立法人化する際、非公務員型の身分を導入し、産学官連携に意欲のある大学は、非公務員型を選択することが重要である。


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