経団連くりっぷ No.158 (2001年11月8日)

金融制度委員会資本市場部会(部会長 福間年勝氏)/10月23日

日本版SECの創設を急げ

−塩崎 衆議院議員と意見交換


資本市場部会では、企業の資金調達の円滑化や個人金融資産活用の観点から、証券取引等監視委員会を中心とする市場監視体制のあり方について検討を開始した。そこで同部会では自民党金融調査会企業会計に関する小委員長を務める塩崎恭久衆議院議員を招き、市場監視のあり方について意見交換を行った。

  1. 塩崎恭久議員発言要旨
    1. 市場の力によるビジネス・モデルの構築
    2.  今、企業に必要なことは、新しいビジネス・モデルの構築である。それを実現するには、株主のプレッシャーによるコーポレート・ガバナンスの改善が不可欠である。現在は、株主の声が資本市場を通じて経営に反映する仕組みとなっておらず、企業は、後ろ向きの過剰債務処理にばかり力を入れている。金融庁はようやく今年8月になって、ROE、ROAといった指標の改善のための証券市場活性化対策を打ち出したが、その内容はパワフルではない。
       1980年代から1990年代にかけて米国では、機関投資家である年金基金の行動が、米国企業のコーポレート・ガバナンスを改善させてきた。産業再生委員会のように政府が直接、企業経営に介入すべきだという意見もあるが、あくまでわが国でも市場を通じたプレッシャーによって改革を進めることが基本だ。健全で、企業や投資家が利用しやすい資本市場づくりを担うのが政府の仕事であり、政治家の責任である。

    3. わが国証券市場の問題点
    4.  そのためにまず、なすべきことは証券市場をトータルにみる「日本版SEC」を創設することである。
       現在の証券市場行政は3つに分断されている。すなわち金融庁で証券会社等の監督は監督局(証券課)、証券会社等の検査は検査局(総務課)、企業会計基準・監査基準の策定、公認会計士等の監督は総務企画局(東証管理官・参事官)、市場制度の企画立案や取引所等の監督は総務企画局(市場課)で行われている。一方、市場監視・証券取引検査、犯則事件の捜査は証券取引等監視委員会と、証券市場行政が分散されているうえ、有価証券報告書は関東財務局がみており、資本市場担当部局の集約化が必要である。
       証券取引等監視委員会は、国家行政組織法に基づく8条委員会であり、内閣総理大臣に従う組織であって、金融庁長官はその代理人である。そのため金融庁には実施部門もないし、証券取引等監視委員会は自らの権限で処分もできず、調査した結果を勧告し、内閣総理大臣の代理人たる金融庁長官に処分を求めることになる。たとえ証券取引等監視委員会が市場ルールについて構想をもっていても、投資教育や会計監査などについて能動的に自らの判断で取り組むことはない。株価が下がるたびに証券取引等監視委員会の強化が唱えられるが、実効性がない。また、証券市場活性化に向けて、投資家優遇税制の有用性が言われるが、現行税制の下でも高株価を記録したこともあり、むしろコーポレート・ガバナンスの改善を含めた総合的な資本市場政策の確立のほうが先決である。ルールをつくり、その運用をチェックする権限を集約する「証券取引委員会(日本版SEC)」の創設を提言しているのも、このゆえんである。

    5. 会計制度の改革
    6.  そのルールのひとつが企業会計基準である。私が自民党で金融調査会の企業会計に関する小委員長として最初に取り組んだ仕事が民間の常勤スタッフを持つ会計基準設定主体(財務会計基準機構)の設立であった。経団連の協力を得て7月にこの新たな組織が発足し、企業のディスクロージャーを担保するインフラづくりがなされることとなった。しかし立ち上がりを見ていると、依然として金融庁にある企業会計審議会がイニシアチブをとっているように見える。証券市場担当部局や審議会が、破綻企業向け貸出の査定が全く現実離れをしており、銀行の株主への配慮がないことへの注意喚起をしなかったり、減損会計の導入に慎重なのも、大蔵省が1999年3月期に銀行の保有株式評価に関し会計基準に原価法の選択適用を認めた際と同じように、金融行政に対する配慮が働いているためではないか。そうした意味で金融と証券行政との分離はやはり必要だ。

    7. 過ちを繰り返さないために分離を
    8.  金融サービスは銀行・証券・保険など各分野で相乗りが進んでおり、イギリスのFSAのように一体的に管理すべきだと金融庁は主張している。今臨時国会で小泉首相は「金融の担い手や金融商品が、銀行・証券・保険などの垣根を越えて一体化しつつある流れを踏まえると、金融庁から資本市場担当部門のみを分離独立させてることは適切ではない」と金融庁の考えに沿った答弁をされた。しかし、日本の経済再生に何が本当に必要かとの深い議論が政府部内で行われた形跡はない。
       一方、アメリカ、オーストラリア、香港などは資本市場担当部局を銀行・保険行政とは切り離したSECを設けている。イギリスのようにセルフ・ガバナンスに慣れた国とは異なる日本の金融行政が、過ちを繰り返さないためには、金融行政当局に対し、証券市場担当部局がダウトと言える仕組みである日本版SECが必要である。金融サービスの一体性に対応するには、担当部局が連携するなど、米国の経験に学べばよい。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    投資家に対する情報開示のあり方をどう考えるか。

    塩崎議員:
    官僚統制型資本主義から脱却し、ルールを明示し、ルールブレーカーを取り締まるのが政府の役割である。一方、ディスクロージャーの基準設定は民間の役割である。投資家に有価証券報告書を官報販売所で1,600円で買わせる時代ではない。東証の株式会社化を契機に、マーケットメカニズムの中で、各企業がアカウンタビリティを発揮してもらいたい。

くりっぷ No.158 目次日本語のホームページ