経団連くりっぷ No.158 (2001年11月8日)

起業家懇談会(座長 高原慶一朗氏)/9月25日

近未来を見通した技術開発と事業戦略が必要

−第4回起業家懇談会を開催


特徴ある技術を軸に成長しているリアルビジョンの杉山社長、ACCESSの荒川社長、鷹山の高取社長を迎えて、開発型ベンチャー発展のための課題や事業戦略等についてきいた。当日は、今井会長、西室副会長、出井新産業・新事業委員会共同委員長らが出席した。

  1. 杉山尚志 リアルビジョン社長 説明要旨
    1. 当社は、システムLSIや3次元グラフィックスに特化した開発型半導体ベンチャー企業である。1996年7月に設立し、2000年12月に東京証券取引所マザーズに上場した。上場により調達した資金をもとに現在はグラフィック技術とLSIの開発に取り組んでいる。今年6月には、技術的な面ばかりでなく、事業化に成功した点が評価されて、今まで大手企業しか受賞しなかった「第8回LSIデザイン・オブ・ザ・イヤー2001」グランプリを受賞した。

    2. ベンチャーの場合は、人や資金が不足しているため、「点戦略」から始めるしかない。すなわち、この仕事しかできないということを明確にする必要がある。「何でもできる」というのは、「何もできない」のと同じだからである。そこで、リアルビジョンは、グラフィックスに特化したLSI開発を行った。その結果、高度なグラフィックス技術を有することが世の中に認められ、事業が拡大し、次第に「面戦略」が展開できるようになった。

    3. 開発型ベンチャーの場合、立ち上がりから量産まで3〜4年かかる。当社は、量産段階に入る前に上場し、資金を調達することができたので、売上を一気に伸ばすことができたが、量産段階以前の売上も利益も上がらない開発段階こそ、資金が必要だということを日本ではなかなか理解してもらえない。

    4. 半導体ベンチャーの創業環境を日米で比較すると、上場までの期間の長さに大きな違いがある。米国では、設立から公開まで平均して3〜4年であるのに対して、日本では、15〜20年もかかるため、優秀な学生が大手企業へ行ってしまう。日本で開発型ベンチャーが少ない原因の一つはここにある。

  2. 荒川 亨 ACCESS社長 説明要旨
    1. 日本で開発した基本ソフトウェアを世界に広げることを目指して、18年前、学生ベンチャー企業として起業した。米国の後追いをせず、日本には家電メーカーが数多く存在することに着目し、全ての機器をネットワークにつなげるソフトウェアをメーカーに供給する事業をコアコンピテンスにしようと考えた。しかし、ネットワーク社会の到来が意外に遅く、苦労も多かった。

    2. そういう状況において、銀行は辛抱強く支えてくれた。日本の金融機関は、ベンチャー企業への融資に消極的だといわれるが、米国の銀行の方がむしろ厳しい。日本は、ベンチャー企業が育ちにくい環境にあるとは思っていない。戦後、焼け野原からソニーやホンダが世界へ育っていった。その頃の環境から比べれば、これだけ経済力をもった日本でベンチャー企業がやってやれないわけがないと信じて、突っ走ってきた。

    3. 当社は、家電向けの組込み系ブラウザを開発したのをきっかけに成長した。家電機器は、パソコンと異なり、CPUとOSが千差万別なため、部品としてソフトウェアを供給するのが大変であるが、日本人は木目細かな対応に向いている上、当社はメーカーとの長年の協力関係によって家電機器とソフトウェアの組合わせを知りつくしているという強みがある。また、当社は、インターネットに係る積極的な標準化活動で海外から評価されている。

    4. ネット家電の普及、情報インフラの整備、コンテンツサービスの充実の3つが今後のビジネス展開を考える上での重要な要素である。当社は、3つの分野がソフトウェアを通じて一つのバリューチェーンとなるよう接着剤の役割を果たしていく。

  3. 高取 直 鷹山社長 説明要旨
    1. 通信市場は従来の「技術優先によるオペレーター主導」の20世紀型構造から、「実益優先による消費者主導」の21世紀型構造に変化しつつある。21世紀型構造において、通信事業者は、消費者に対して最小のコストで最大のサービスを提供すべく「サービスオペレーター」に転換していかなければならないが、その際、二つの大きな問題がある。第1は、通信事業が従来とは異なり、低収益事業となるため、投資限界が発生すること、第2は、全国同一料金で同一サービスを提供しなければならないという国の考え方と競争企業の考え方との最適な均衡点を見出すまでに、相当な時間を要することである。

    2. このような中で、当社としては、自ら所有すべきものと、所有すべきではないものを明確に区分している。所有すべきものの第1は特許、第2は電波、第3は特許ビークルとしてのキーデバイスであり、これらを基礎にインフラ・ネットワーク、ラスト1マイル、ラスト10mの分野でそれぞれ事業を展開している。

    3. インフラ・ネットワーク事業としては、ワイヤレス網を接点に全ネットワークを融合する「オンデマンド・オプティマイズ・セレクション」を提唱している。近い将来、モバイルがブロードバンド化することは間違いない。しかし、一般家庭で安価に1.5Mbpsの常時接続が可能な現在においては、高品質の音声を確実につなげるというモバイル本来の役割をきちんと果たすことが重要であり、ここ数年はそれに集中する。ラスト1マイル事業では、既存のPHS網をワイヤレスADSL網として生き返らせるシステムに注力する。ラスト10m事業では、電気の配電盤や水道のメーターと同様、情報のディストリビューターとしてウェブディストリビュータが普及する余地がある。当社は、ここに特許を集中させ、多様な通信サービスが次々と誕生する環境整備に努めたい。いずれにせよ、この3事業を通じて得たノウハウ、特許をユニット化し、それを各地に移植していく「知恵の加工貿易体制」の創出に専心したい。


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