経団連くりっぷ No.159 (2001年11月22日)

アジア・大洋州地域委員会(共同委員長 立石信雄氏)/11月1日

わが国自由貿易協定のモデルそして政府と産業界の連携による外交交渉のモデルとなった日シンガポール経済連携協定

−日本・シンガポール経済連携協定に関する報告会を開催


日本とシンガポールの両国政府は、今年1月から、わが国最初の自由貿易協定である日本シンガポール経済連携協定締結に向けた交渉を続けてきたが、10月10日から12日にかけて、大使級の交渉会合を東京で開催し、実質的な合意に達した。そこで、実際の交渉を担当された外務省、経済産業省、財務省の幹部の方々より合意内容について話をきいた。

  1. 宮川 外務省経済局開発途上地域課長説明要旨
  2. 2000年10月22日の日シンガポール首脳会談で、今年1年かけて二国間経済連携協定の交渉を行い、今年末までにまとめることが合意された。異例にも1年という枠で交渉が限られたため、非常にスピーディな交渉となったが、その過程において、経団連アジア・大洋州地域委員会の自由化タスク・フォース(TF)(座長:深田 オムロン顧問)に、多大なる御支援を頂き感謝している。自由化TFの皆様には協定に盛り込むべき具体的なビジネス上の要望を出してもらうとともに、今年3月には、われわれとともにシンガポールを訪れシンガポール日本人商工会議所ならびにシンガポール政府と意見交換をして頂いた。その結果、シンガポールに対する要望事項の多くの部分を産業界の参加を得て構成することができ、その後の交渉を有意義なものにすることができた。また、皆様から頂いた要望の約7割を交渉の中で実際に達成することができた。産業界の支援を得てできたこのような外交交渉はこれからの外交交渉の新しいスタイルとして発展する素地を持っていると考える。
    今回の協定は300条からなり、通常の二国間条約の25本分に相当する。主要な項目についての内容は以下の通りである。

    1. 自由化・円滑化分野
    2. (1) 関税:

      両国間の貿易量の98%以上に相当する品目の関税を撤廃(2000年金額ベース)することを合意した。日本からシンガポールへの輸出にかかる関税はすべて、シンガポールから日本への輸入についても約94%について関税が撤廃される。その結果、シンガポールからの輸入が急増した場合の対応策として、二国間セーフガードを盛り込んだ。日本はこの措置をシンガポールからの輸入に対してのみ発動し、関税を交渉成立前に適用していた水準に戻すことができる。

      (2) 原産地規則:

      第3国からの迂回輸入を防止するためのものであるが、わが国産業界からの要望に基づき、多くの物品に対して関税分類変更基準を適用することで合意した。ただし、シンガポールから要請のあった一部品目については、付加価値基準を適用することにした。

      (3) 税関手続き:

      簡素化ならびに国際的調和のために協力することを合意した。

      (4) ペーパーレス貿易:

      貿易関連文書の電子的処理を促進する。

      (5) 相互承認:

      電気通信機器および電気製品について、通常輸入国側で必要な適合性評価手続きの一部を輸出国において実施することを合意した。

      (6) サービス貿易:

      シンガポールはWTOにおいて自由化を約束している62分野を日本に対してのみ139分野に拡大し、日本はWTOにおいて自由化を約束している102分野をシンガポールに対してのみ134分野に拡大することに合意した。また、第3国の企業が、この協定を悪利用してシンガポール経由で日本への迂回投資を行うのを防ぐため、日本あるいはシンガポールのいずれかに設立される第3国系の企業については、協定の受益者の範囲を、いずれかの国において実際にかつ継続的に事業活動を行っているものと定めた。

      (7) 投資:

      投資にかかる内国民待遇の原則供与、土地収用の際の補償の適正化ならびに送金の自由等を定めた。

      (8) 人の移動:

      人の移動の容易化ならびに資格の相互承認を諮ることを合意した。具体的には、技術士等の相互承認を達成する方向で現在も交渉継続中である。

    3. 経済連携強化
    4. 金融、情報通信技術、科学技術、中小企業、貿易投資促進、放送、観光、人材養成の分野で、さまざまな具体的協力内容が盛り込まれた。
      日シンガポール経済連携協定は、「実質的にすべての貿易品目」の自由化などWTO要件を満たしたアジアで最初の自由貿易協定であるとともに、これまでの物品の貿易を中心にした協定を、サービス、投資、人の移動、さらには金融、教育、科学技術開発等の分野の協力関係の設立等の経済連携強化等の分野にまで拡大した初めての二国間協定である。

  3. 村上 財務省関税局調査課長説明要旨
  4. 自由貿易協定がWTO整合性を保つためには、「実質的すべて」の品目の関税をゼロにすることが必要であるが、「実質的すべて」の内容については未だ議論がある。通常、以下の2つの要件を満たすことが必要と言われている。(1)二国間貿易量の9割以上について関税を無税にすること、(2)特定セクター(例えば農業)を一括排除しないこと。シンガポールとの協定においては、(1)についてクリアしているとともに、(2)についてもWTO無税に加えて実行無税の農産品の自由化をシンガポールに約束したため、農業セクターを一括除外という状態にはなっていない。この点はシンガポールも合意している。

  5. 飯田 経済産業省通商政策局地域協力課課長補佐説明要旨
  6. 本協定は、今後わが国が結ぶ自由貿易協定のモデルケースとなるとともに、交渉における政府と産業界の協力のあり方に関するモデルケースでもあると考える。今回の交渉を通じて、産業界の具体的ニーズを政府がどの程度把握しているかということが重要だということを再確認することができた。交渉の過程で自由化TFの会合を通じて、要望事項をその詳細な内容も含めて聞かせ頂いたことや実際にシンガポールに行って頂いたことは、その後の交渉を有益なものとした。今後、他の国と自由貿易協定の交渉をする際にも、今回の協力関係が引続き維持できることを希望している。


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