経団連くりっぷ No.159 (2001年11月22日)

統計制度委員会企画部会(部会長 飯島英胤氏)/10月29日

GDP統計の問題点と改善の方向

−東京大学大学院経済学研究科 西村教授よりきく


統計制度委員会企画部会では、東京大学大学院経済学研究科の西村清彦教授を招き、GDP統計をめぐる問題点や改善の方向などについて説明をきいた。

○ 西村教授説明要旨

  1. GDP統計に対する世間の期待と、現実に抱えている問題点や限界との間に、大きなギャップがある。これを解消するためには、統計を利用する側と作成する側の双方の立場から、理解を深める必要がある。

  2. GDP統計と「景気の実感」とのギャップは、誤解による部分もある。例えば、民間最終消費支出に含まれる帰属家賃は概念的なものであり、実感として感じられないのは当然である。また、どんな統計でも誤差は生じるものであり、政治家やマスコミは、小数点以下の伸び率を大きな問題として捉えすぎである。

  3. もちろん、GDP統計の側にも問題はある。日本では、GDP速報と確報で作成方法が異なり、速報段階では主に支出面、確報では主に生産面からのアプローチがとられている。米国などでは速報値から確報値に至るまで統一的に作成されるため、時間が経つにしたがって精度が高まるが、日本では確報段階で全く異なるアプローチに変わるという問題がある。
    内閣府は、この問題を解消するため、速報段階から生産アプローチをとる方向で検討している。但し、現時点では生産面のデータが十分整備されておらず、各種の業務統計を活用したり、民間研究機関の協力を仰いで新たな統計を作成することも必要となる。

  4. 時代の趨勢からいっても、支出面からのアプローチは限界にきている。家計調査や法人企業統計は、以前は信頼性の高い統計だったが、近年は精度の低下が指摘されている。また、統計調査員の高齢化が進む中、作成上のノウハウが次の世代に十分伝達されてないという問題もある。

  5. 政府部門の統計(公共投資、政府支出など)の不備は、最も大きな問題となっている。公共工事などに関する四半期データがなく、年度決算ベースでしか正確に把握できないのが現状である。また、政府部門は現金主義をとっているため、発生主義であるSNAとの矛盾が生じている。

  6. GDPを含めた経済統計は、一定のマニュアルに従って機械的に作成すれば良いというものではなく、作成側の判断が求められる部分もある。
    しかし、それが恣意的なものと疑われないためには、作成プロセスに関する透明性を高めなければならない。具体的には、経済統計を作成する組織に独立性を付与すべきである。また経済統計の場合、各省庁が作成を分担する「分散型」は望ましくなく、「集中型」に改めるべきである。


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