経団連くりっぷ No.159 (2001年11月22日)

金融制度委員会資本市場部会(部会長 福間年勝氏)/11月2日

資本市場の活性化と監視体制の強化に向けた金融庁の取組みをきく


資本市場部会では、企業の資金調達の円滑化や個人金融資産活用の観点から、証券取引等監視委員会を中心とする市場監視体制のあり方について検討している。同部会では10月23日の塩崎恭久議員との懇談会に引き続き、金融庁の藤原 隆審議官より、同庁の資本市場の活性化と監視体制の強化に向けた取組みについて説明をきいた。

  1. 藤原審議官説明要旨
    1. 金融行政組織と証券市場監視体制の変遷
    2. 金融行政組織は、過去10年にわたり、大きく改革を進めてきた。1992年7月に証券取引等監視委員会、大蔵省大臣官房金融検査部が設置され、1998年6月には金融監督庁が発足し、執行と政策立案機能を分離した。1998年12月には金融再生委員会が発足し、金融機関の破綻処理や資本増強等を担当することとなった。2000年の7月に金融監督庁と大蔵省金融企画局を統合する金融庁が設置され、2001年1月の省庁再編で内閣府の外局となった。同時に上部組織である金融再生委員会が廃止された。
      証券取引等監視委員会は、1992年7月に証券不祥事を背景とする「コーチとアンパイアを分離すべし」との批判に応え、大蔵省証券局から分離して発足した。1998年に金融監督庁、2000年に金融庁に移管された。

    3. 証券取引等監視委員会の組織・実績
    4. 証券取引等監視委員会は、総理大臣が任命する委員長1名、委員2名の合議体であり、事務局122名と各財務局の監視官部門143名の体制である。委員会は、

      1. 総理大臣、金融庁長官への行政処分その他の措置についての勧告、
      2. 総理大臣、金融庁長官又は財務大臣に対する建議、
      3. 証券会社等に対する検査(総理大臣および金融庁長官からの委任)、
      4. 風説の流布やインサイダー取引など犯則の心証を得た場合の告発(金融庁は監視委員会の勧告を尊重し、必要に応じて行政処分を実施)、
      といった機能を有している。
      勧告件数は1996年度までは年5、6件であったが、2000年度は34件に増えた。1992年度からの類計188件は、米国SECの同606件と比較すると少ないが、米国の数字には司法省への情報提供も含まれており、一概に比較できない。265名という定員は、近年急速に拡充してきた結果だが、米国SECの3,285名と比較するとまだ少ない。

    5. 監視委員会の体制強化をめぐる議論
    6. 監視体制の強化については、

      1. 委員会の人員増、
      2. 金融庁への再統合、
      3. 日本版SEC創設、
      といった意見がある。
      諸外国の動向をみると、英国では、銀行・証券・保険の監督権限の統合を目指し、1997年に金融サービス機構(FSA)が設立された。また、ドイツでは連邦銀行監督庁、連邦保険監督庁、連邦証券取引監督庁の3組織を統合し、ひとつの連邦金融サービス監督機関を設立する法案が出されている。さらに米国においても、半世紀以上、業種別監督体制が続いてきたが、1999年にグラム・リーチ・ブライリー法が成立し、ひとつの金融持株会社の下で銀行・証券・保険をそれぞれ子会社として営むことが可能となった。監視体制がどう対応するのか注目している。

    7. 資本市場活性化に向けての取組み
    8. ここ数年、金融庁では、証券会社の競争の促進、市場の多様化・効率化、公正な取引・取引の安全性の確保、資金運用手段の充実などに向け、さまざまな法制・税制の改革を成し遂げてきた。
      金融庁では

      1. 投資家が主体の証券市場の構築に向けた『証券市場の構造改革プログラム』の策定(2001年8月8日発表)、
      2. 個人投資家の市場参加を促進する制度改革を検討する、金融審議会金融分科会第一部会の審議開始(同年10月3日)、
      3. 柳沢大臣の私的懇話会である「日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会」の審議開始(同年10月1日)、
      4. 証券取引等監視委員会の抜本的な体制強化(2002年度定員につき人員倍増を要求)、
      といった取組みを進めている。これらを通じて、資本市場の活性化に向けて一層、尽力していきたい。

  2. 質疑応答(要旨)
  3. 経団連側:
    日本の証券取引法は米国の証券取引法をモデルとして立法化されており、米国のSECに似た監視体制を構築するほうが、英国型を目指すよりも早く監視体制の改革を実現でき、また実効性があるのではないか。
    金融庁側:
    行政組織は各国とも独自の歴史の中で形成されてきた。業種別監視をとってきた米国でも、銀行・証券・保険の一体化が進んでおり、監視体制もそれに合わせることが必要になろう。

    経団連側:
    米国は業種別規制というが、有価証券取引に該当するものであれば、証券業者に限らず銀行も発行会社も全て摘発する体制になっている。業種別に監視するのではなく、市場取引を包括して監視する米国型のほうが優れているのではないか。
    市場のニーズに的確に対応した開示ができていれば業種にかかわらず、いろいろな商品が出てくると思うがどうか。
    金融庁側:
    開示のあり方については大きな課題となると認識しており、新しいビジネスモデルなどを検討対象とする「日本型金融システムと行政の将来ビジョン懇話会」で検討をしているところである。

    経団連側:
    増員をするにしても、人数に合わせて仕事を増やすようでは困る。意義のある増員ができるのか。
    金融庁側:
    人員増の際には民間からも積極的に採用していきたい。

    経団連側:
    証券税制の成立の見通しはついたが、それ以外の証券市場活性化対策として、優先度の高いものは何か。
    藤原審議官:
    証券税制の議論は終わっておらず、
    1. 申告不要制度の創設、
    2. 株式投資信託に係る税制措置、
    3. ETF(株価指数連動型上場投資信託)の対象指数の拡大に伴う税制措置、
    4. 配当課税に係る税制措置、
    5. 高齢者貯蓄を経済活性化に役立たせるための税制措置、
    について、年末まで議論することになっている。証券関連の商法改正も眼前の課題である。


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