経団連くりっぷ No.159 (2001年11月22日)

循環型社会を考えるシンポジウム/10月17日

循環型社会の基盤となる静脈物流システムの構築が重要


静脈物流による港湾空間の高度利用をテーマとして、NPO法人リサイクルソリューションと(財)港湾空間高度化環境研究センターが主催し、経団連と国土交通省、日本経済新聞社等が後援する標記シンポジウムが開催され、経団連からは、廃棄物・リサイクル部会長の庄子幹雄氏が出席した。企業や地方公共団体の環境・港湾関係者約530名が参加する中、循環型社会を支える重要な基盤となる静脈物流システム構築の必要性、さらに低コストの大量輸送が可能であり、環境にも優しく、港湾の有する用地や既存の物流・産業ストックを活用できるといった利点を持つ「海上輸送ネットワーク」構築の必要性等が提言された。以下はシンポジウムの概要である。

  1. 末吉北九州市長基調講演要旨
  2. リサイクル産業は収集面や製品、市場での不安定性があるため、産業として興すためには、種々の施策が必要である。たとえば、市民による分別排出を促すための教育・啓蒙や技術開発支援、法制度整備、インフラ整備、経済的インセンティブが必要と考えているが、地方公共団体としては、どのような施策をどこまで打つかが最大の課題である(図1参照)。


    図1 リサイクル事業成立のためのシステムづくり

    北九州市臨海部の優位性は、港湾があり船舶が利用できることや、広大なストックヤードの確保ができること、管理型の最終処分場を持っており重要度が高い最終の残さ処分ができることである。北九州市で環境産業を興す取組みを始めた当初は、物流のことはあまり意識になかったが、一般廃棄物処理にかかる費用のうち多くを運搬費が占めるため、環境産業を成立させるためには物流コストを下げることが非常に重要と考えるようになった。物流コストを下げるためには、環境産業の隣に製造業等の物流が発生する企業を併設し、北九州からの帰便に半分でも荷物を乗せることも有効な手段である(図2参照)。


    図2 拠点化のための基盤整備概念図

    今後リサイクル産業が発展していく過程では、国内輸送が大部分であり、トラック輸送が主流になると考えている。将来的には、物流効率化の観点から産業立地を進めていくとともに環境負荷の低減を考慮したモーダルシフトを促進し、また国際的な物流を視野に入れた港湾整備や響灘の未利用地を有効活用した幅広い静脈産業の立地を促進していくことが考えられる。その際、輸送コストを計算すると海上輸送には大きな可能性が出てくるだろう。北九州市には着岸可能な港湾施設も多数ある。国としても、大量輸送を可能とするよう、港に物流基地を配置することによって輸送コストを下げることを考える必要がある。市としては、海上輸送だけでなく鉄道輸送、トラック輸送を含めた総合的なネットワークを構築し、輸送コストを下げることでリサイクル産業を育てる等の地域発展計画を立てることを考えたい。

  3. パネルディスカッション
  4. 末吉興一 北九州市長:
    環境産業を集積化して物流拠点をつくり、輸送効率を上げるシステムを構築する必要がある。市としては、都市計画を含め種々の許認可業務の窓口を一括し迅速に対応している。また、良い事業であれば、住民説明会にも立ち会うなどの支援策をとっている。海運、鉄道、陸送を含めて総合的な物流体系の構築に取り組むことで循環型社会を考えることには大きな意義がある。

    庄子幹雄 経団連廃棄物・リサイクル部会長:
    海上輸送活用のためには、各港湾のリサイクル施設の整備状況や再生資源の輸送先等のデータベースをつくり、ネットワーク化する必要がある。「経団連新資源産業センター構想」でも海運の利用を考えている。中小企業も含めて環境ロジスティクスへの取組みに努めていく必要がある。

    益田清 トヨタ自動車環境部長:
    自動車リサイクルシステムの構築が大きなテーマになっている。特にシュレッダーダストの全国的な物流体制を検討する際、廃棄物処理法による業許可や施設許可、県条例による産業廃棄物の流入規制が存在するなか、どのような取組みができるのかを詰める必要がある。全産業が循環型社会に向けた取組みをすることが必要である。

    佐野角夫 ソニー顧問・社会環境担当:
    パソコンやポータブルな家電製品のリサイクルへの取組みが始まると、当面、全国の世帯へのアクセスは陸上輸送に頼ることになろう。海上輸送は環境負荷削減の観点から利点があるため、短距離での輸送航路のコストをみながら、今後の課題として検討すべきではないか。

    細見好昭 日本通運取締役常務執行役員:
    廃棄物処理法に則って業務を進めることは当然と考えているが、自治体ごとに解釈運用が異なる場合があるため、許可取得事業者の立場からは、平易な統一的運用とすることをお願いしたい。環境ビジネスは今後の成長分野と考えており、今後、産業廃棄物の海上輸送網の拡大・充実を図っていきたい。

    久保雅義 神戸商船大学教授:
    大量に長距離の輸送を行う広域処理を行う場合、往復ともに港に寄りながら廃棄物を集めていくシステムを組んで効率化を進めれば、トータルコストを下げることができ、環境負荷の少ない海上輸送の活躍の場がさらに広がることが期待できる。国内産業が空洞化していく中、産業を育てる視点で静脈物流システムを考える必要がある。

    竹居照芳 日本経済新聞社論説委員:
    静脈産業育成に際し検討すべき課題は多い。なかでも、より使いやすい静脈物流システムをつくることが循環型社会に向けて重要である。関係者には多くの課題があることを理解していただき、改善への取組みをお願いしたい。


くりっぷ No.159 目次日本語のホームページ