経団連くりっぷ No.160 (2001年12月13日)

なびげーたー

産業の空洞化対策を急げ

産業本部長 林 正


空洞化を回避するためには、国際競争力の強化に向けて、政府と民間の資源を成長が望める産業分野に効率的に配分することが重要であり、この視点から需要・供給の両面にわたる総合的な対策が必要となる。

現在、製造業の空洞化といわれる事態が急速に進行している。その海外生産比率は、1985年度に3.0%であったが、2000年度には、14.5%になる。特に、これまでわが国の輸出の太宗を占めてきた輸送用機械や電気機器の海外生産比率は、それぞれ33.2%、25.2%と他の産業と比べて高く、このまま推移すれば、すでに減少傾向にある貿易黒字がなくなり、そのこと自体が、資源小国であるわが国の国力を弱める恐れがある。

すでに、雇用面では、製造業全体の雇用者数が、1995年の1,308万人から2000年には1,205万人へと、この5年間で100万人の減少をみており、製造業の空洞化がわが国の雇用の確保に重大な影響を与えかねない。さらに、この問題が深刻なのは、科学技術創造立国としての基盤が失われかねないことにある。それは、わが国の民間の研究開発投資額および研究本務者の約9割が、製造業に関係しているからである。

こうした問題認識から、産業問題委員会では、これまでわが国の成長牽引力であった製造業を中心に、わが国産業の国際競争力を高め、雇用の確保による豊かな国民生活を実現するための方策について検討を開始した。

検討の方向としては、わが国の将来の産業構造を見通したうえで、需要・供給の両面にわたり、いかなる政策手段を講ずるかである。これは、産業活動の停滞の原因が、約40兆円にものぼるとされる需給ギャップに象徴されるように、単に製造業の海外移転にあるのみならず国内における新しい需要を発掘できないこと、供給面の構造改革が進んでいないことにあるからである。

需要面で新しい分野を開拓できないわけではない。高齢化や国民の健康志向の高まりにより、医療・介護に関する需要が高まることは容易に予想される。環境に関連しても、廃棄物処理とリサイクル産業の育成、地球環境問題の解決に向けた省エネルギー機器の開発、分散型電力や自然エネルギーの活用など新たなエネルギーシステムの導入などが求められている。ITによる産業活動の効率化の促進と教育・文化・娯楽サービスの充実、バイオ産業なども需要の増大が期待される分野である。

供給面の対策は、供給力の強化であり、このために不良債権を処理することは言うまでもないが、最も重要な課題は、研究開発力を高め、それによって国際競争力のある高付加価値製品を生み出すことである。企業が環境の変化に応じて組織を柔軟に変更できる制度も必要である。また、わが国が最後に頼れる資源は人材であり、その育成と効率的な活用に向けた雇用政策も必要となる。

決め手はない。今、求められるのは上述したような考えられるあらゆる手段を大胆かつスピーディに講ずることである。


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