経団連くりっぷ No.161 (2001年12月27日)

金融制度委員会資本市場部会(部会長 福間年勝氏)/12月11日

行政組織法の観点から見た証券取引等監視委員会の問題点

−東京大学大学院法学研究科 宇賀教授よりきく


資本市場部会では、企業の資金調達の円滑化や個人金融資産活用の観点から、証券取引等監視委員会を中心とする市場監視体制のあり方について検討している。同部会では東京大学大学院法学研究科の宇賀克也教授を招き、行政組織法の観点から見た市場監視体制のあり方の課題について説明をきいた。

  1. 宇賀教授説明要旨
    1. 日本にもあった証券取引委員会
    2. 現在、証券取引等監視委員会は、国家行政組織法第8条に基づいて、内閣府の外局である金融庁に置かれる付属機関として位置付けられている。しかし、その源流は、GHQの指導の下に米国の独立規制委員会をモデルに自らの名で対外的な意思決定を行う行政委員会(3条委員会)としてつくられた「証券取引委員会」にある。その狙いはわが国の行政を民主化し、政治的中立性を重視する観点から、内閣から独立した組織を編成することであった。
      ところが占領終了後、国においては公正取引委員会等を除き、行政委員会はほとんど廃止、改組されてしまった。その理由として

      1. 民間に官僚に比肩する専門家はいない、
      2. 議院内閣制の下では行政機構は内閣に、内閣は国会に、国会は国民に対して責任を負い、内閣から独立した委員会は違憲の可能性がある、
      等が挙げられた。しかし、
      1. 民間にも専門家は多い、
      2. 内閣法制局は、内閣が人事権、予算編成権を持つので違憲ではない、
      との見解を示しているほか、「国民に対して責任を負う国会が内閣の下に置かないと立法していれば違憲ではない」との有力説もある。

    3. 現在の証券取引等監視委員会
    4. 証券取引委員会の廃止後、証券行政については大蔵省証券局が担ってきたが、証券不祥事をきっかけに「コーチとアンパイアの分離」が求められ、証券取引等監視委員会が設けられた。しかしこの委員会は勧告・告発権限のみを有し、自ら処分を行う権限のない8条委員会となった。
      委員長および委員は、両議院の同意を得て内閣総理大臣が任命し、党派的な偏りを抑制し、在任中は政治的活動を禁止される。ちなみに国家公安委員会の委員長は閣僚であるが、政治的中立性を維持するために表決権を持たない。罷免権は内閣総理大臣が持つが、委員会が認めた場合でなければ罷免できない。この身分保障により職権行使の独立性を確保している。また合議制をとることにより、透明性を高めている。

    5. 監視委員会を3条機関にする意義
    6. 日本版SEC構想として、証券取引等監視委員会を3条委員会に移行することが検討されている。その意義と評価は金融庁の所掌事務をどう捉えるかで変わる。現在の金融庁設置法においては金融庁の所掌事務として金融機関の保護育成は明示されていない。金融庁に金融機関の保護育成機能があるとの解釈をすれば、再びコーチがアンパイアとしての市場監視機能を兼ねているとの批判を受けることになる。例えば8条委員会は原則として自ら行政処分はできないため、建議・勧告を行った際に処分権限を持つ金融庁長官が従わないなど、金融庁とスタンスがずれることとなれば機能しない。もっとも勧告内容は公表されるため、これに従わないことは政治的には困難であろう。
      金融庁と委員会を分離するかどうかで決定的意味をもつのは金融庁職員の再就職のあり方である。退職後、金融機関にお世話になるということでは厳正な規制を課することは困難である。

    7. 証券取引等監視委員会の人員の増強
    8. また、現在の仕組みを変えないとしても、現在の証券取引等監視委員会の陣容は、米国のSECと比べて見劣りがする。規制のあり方が事前規制から事後監視型へと重点を移す中で、それにふさわしいものにしていく必要がある。

    9. 金融行政における法執行手段の拡充
    10. 米国SECは日本の証券取引等監視委員会にはない取締役としての活動の禁止を求める権限を有するほか、日本の証券取引等監視委員会が持っていない

      1. 民事制裁金課徴権限、
      2. 不当利得の吐出し命令権、
      3. 差止命令権、
      4. 排除命令権、
      といった多様な法執行手段を持っている。内閣総理大臣は業務停止命令権限を持っているが、制裁の大きさ、顧客に与える影響の大きさから発動しにくいものとなっている。行政指導では透明性に欠けることとなり、多様な法執行手段を認めて柔軟な対応を可能とすべきである。

  2. 意見交換(要旨)
  3. 経団連側:
    委員会の専門性を保つために必要なことは何か。
    宇賀教授:
    委員の人材確保が困難という意見には根拠がない。民間にも十分な専門家がいる。事務局の専門性については長期的にはプロパーの専門家の育成が求められる。短期的には出向もやむを得ないがノーリターンルールとし、幹部には骨を埋めてもらう体制にしないといけない。

    経団連側:
    市場監視機能の中にはノーアクションレターやセーフハーバールールの策定もある。そのためにも、委員会に規則制定権を付与することは不可欠ではないか。

    経団連側:
    親会社子会社の関係になぞらえて考えれば、自己完結的に権限を行使できてこそインセンティブが生じる。

    経団連側:
    金融庁と委員会とのスタンスが一致しているかどうかは問題ではない。市場監視機能を金融庁から切り離した上でプロパー職員を育成することが重要ではないか。

    経団連側:
    市場の透明性、公平性には分かりやすさも重要である。金融行政の名残のある金融庁から市場監視機能を切り離したほうがいい。
    宇賀教授:
    やはり金融庁と証券取引等監視委員会にはスタンスにずれがある印象だ。附属機関としての限界があるのであれば、戦後の証券取引委員会と同様、3条委員会に戻ることが根本的な解決策だと思う。

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