経済政策委員会(委員長 櫻井孝頴氏)/12月6日
経済財政諮問会議(議長:小泉首相)は12月4日、経済財政の中長期ビジョンとして「構造改革と経済財政の中期展望(仮称)」の概要を公表した。経済政策委員会では、経済財政諮問会議の議員でもある東京大学大学院経済学研究科の吉川洋教授より、経済構造改革に向けた課題と今後の展望について、「中期展望」の内容も含めて説明をきいた。
経済成長に関するオーソドックスな考え方は「持続的な成長は供給力(労働力、資本、技術)で決まる」というものであり、現在の低成長から脱するためには、供給側の問題に手をつけるべき、ということになる。小泉改革にはこの考え方が反映されている。しかし私は、レーガン、サッチャー流の供給側の改革だけで十分とは考えない。
成長の鈍化は、需要の飽和によって生じる。携帯電話市場の成長も、供給力の問題ではなく、需要飽和によって鈍化した。
成長を維持するには需要の「中身」を変える必要がある。交通手段を例にとると、馬車から鉄道に置き換わる中で、経済が成長した。もちろん「馬車がすたれる」という部分的な痛みはあったが、マクロ的には明らかにプラスだった。日本でも1960年前後に、石炭から石油へのエネルギー革命があった。当時、石炭は一大産業であり、現在の構造改革と同様に「痛み」の議論があったようだ。但し、この「痛み」は経済全体から見れば部分的であり、エネルギー革命がなければ、その後の日本経済の発展はありえなかった。
構造改革において重要なポイントは、「痛みは部分的であるべき」ということであり、マクロ経済に痛みが発生する改革はミスマネジメントだ。途中過程ではマイナス成長もありうるが、その後5〜10年間もマイナスが続くようではおかしい。
「馬車から鉄道」「石炭から石油」のような変化を、持続的な需要拡大につなげることが重要である。今後の日本においては、高齢化や循環型社会が需要面でのフロンティアになる。また、高付加価値を生む源泉は人的資本である。政策運営においても、環境、高齢化、人材育成に重点を置くべきだ。
「構造改革と経済財政の中期展望」では、改革によって中期的な実質成長率は1.5%程度に高まると見通しており、産業構造審議会でも2.5%成長を見込んでいる。これらは、現在の低成長下では「楽観的」との印象を与えるようだが、米・英など成熟国でも3〜4%成長を実現しており、「ゼロ成長なら御の字」という見方はペシミズムにすぎない。