経団連くりっぷ No.163 (2002年1月24日)

アメリカ委員会企画部会(部会長 本田敬吉氏)/12月13日

米国経済は安定的に成長を続けている

−同志社大学経済学部 篠原教授よりきく


アメリカ委員会企画部会では、同志社大学経済学部の篠原総一教授より70年代以降の米国経済の動向を中心に話をきくとともに懇談した。

○ 篠原教授説明要旨

  1. 1970年代以降のマクロ経済指標の安定性
  2. 1970〜80年、1980年〜90年、1990〜98年の米国の成長率はほとんど変化がない(3.2%、3.2%、3.6%)。さらに、インフレ率、失業率、実質GDP成長率、労働生産性(実質GDP/総労働時間数)のいずれも1990年代のパフォーマンスは高い一方で、1970年代以降大きな変化がないことも事実である。これは、米国がオイルショック、金融自由化、ITやグローバル化といった環境変化に柔軟に適応してきたことを示している。
    近年、米国ではニューエコノミー論が主張されることもあるが、マクロ経済指標によれば、実質GDP成長率の上昇は大部分が労働時間の増加に起因し、過去と比較して圧倒的に労働生産性が高くなっているわけではない。確かに1997年以降は統計上も労働生産性上昇により成長率が上昇しているが、未だにその傾向は確定したとは言えず、表われつつあるに過ぎない。T型フォードの導入によるマクロの生産性向上が認識されるまでには10年を要したように、IT革命の影響が今すぐマクロ指標を改善することはない。
    他方、製造業では生産性の上昇も見られる。1970〜80年、1980年〜90年、1990〜98年の製造業の労働生産性上昇率は3%台で推移しているが、全産業の上昇率は1%台にとどまっており、特に1996年以降、製造業の生産性は非常に高い。しかし、これは80年代半ば以降、製造業ではCapital Deepening(資本進化)が進み、その結果として生産性が向上した一方で、経営合理化によりレイオフされた労働者や生産用資材がサービス産業に吸収されたため、サービス産業の生産性が下がったことによる。

  3. レーガノミックスとクリントノミックス
  4. レーガン政権は、生産性が上昇しないのは投資不足であるためと認識し、投資促進に取り組んだ。すなわち、投資減税、減価償却加速化、規制緩和や、所得税率の一律カットを実施し、投資増加により、生産性上昇、成長率上昇、税の自然増収、財政赤字縮小へとつなげることを考えた。他方、クリントン政権は、投資を奨励しなくとも投資収益率が高ければ、企業は投資を行うとの考えに基づき、教育・職業訓練、情報インフラ、技術開発、企業組織に重点をおいた。総じて、両政策とも相応の効果をあげており、評価できる。

  5. テロ事件後の米国経済
  6. 国民が将来に不安を感じると、公共投資や減税の波及効果が小さくなるため、ケインズ政策はあまり有効ではない。そのため、テロ事件が米国経済に与える影響は一時的なものとなろうが、炭疽菌騒動が続く限り、ブッシュ政権が実施した緊急景気対策もその効果は小さい。


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