経団連くりっぷ No.164 (2002年2月14日)

なびげーたー

バイからマルチへの備えは充分か

国際経済本部長 久保田政一


国際交渉や協議の場がバイ(二国間)からマルチ(多国間)にシフトしつつある。わが国経済界はこの新しい動きへの備えが充分であろうか。

WTO(世界貿易機関)、OECD(経済協力開発機構)といった国際機構に加え、APEC(アジア太平洋経済協力会議)、ASEM(アジア欧州会合)等々、マルチで経済問題を協議・交渉する機会が増えつつある。と同時に、国際的にも「官」から「民」への流れの中で、民間経済界の意向をこれまで以上に汲み取ろうという動きが見られる。WTOは、経済界にも常に門戸を開いていて、経団連がミッションを派遣した際には事務局長や各国の代表が温かく迎えてくれた。経団連では、新ラウンド交渉に経済界の意見をできる限り反映すべく、引き続き適宜ジュネーブにミッションを派遣し、WTO関係者との懇談を重ねていくこととしている。また、OECDに対してはBIAC、APECにはABAC、ASEMにはAEBFとそれぞれビジネス諮問委員会が常設され、年に何回も会議が開催されている。これらの会議には、経団連も会員企業のご協力を得て積極的に参画していることはご承知の通りである。

今後はますますマルチの重要性が高まっていくと思われる。例えば1995年に発足したWTOは、GATT時代にはなかった強力な紛争処理機構を有しており、これまでバイで対応していた通商摩擦案件が、WTOに持ち込まれてルールに沿って解決されることが多くなっている。またグローバリゼーションやリージョナリゼーションの進展に伴い、マルチベースの共通課題も増大しつつある。

そのような中で「ルール・テイカー」から「ル―ル・メイカー」への役割が期待されているわが国にとっては、マルチ会合への対応が急務となっている。特に、わが国経済界は、各国経済界との意見調整を図りつつ、国際ビジネスをより円滑化するためのルールづくりに積極的に参画していくことが求められている。

この課題に応えるには、資金面で応分の協力をすることと、人材の育成(少なくとも英語で議論できる)に努め、会議においてリーダーシップを発揮することが必要不可欠である。具体的には、会議の議長を務めることや、会議を日本で開催することがその第一歩である。実際、私も会議に出席した際、日本で議長を引き受けないか、あるいは次は日本で開催できないかとよく聞かれる。その度になんとか理由をつけて婉曲に断ってきた。

最近では日本が躊躇していると、アジアの国々が手を挙げることもしばしばである。彼らは、国威の発揚ということもあり、官民あげて対応しつつある。

このような事態を放置しておくと、政策面ばかりでなく、国際会議のインフラやロジの面においてもわが国は孤立してしまうのではないか、というのは単なる私個人の危惧であろうか。


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