経団連くりっぷ No.164 (2002年2月14日)

常任理事会/2月5日

最近の商法改正について報告


経団連では、商法改正において経済界の意向を反映させるべく、関係方面に働きかけてきた。これに対し、政府の法制審議会では、商法の大幅な改正案について、2月13日に法律案要綱を取りまとめ、法務大臣に答申する運びとなった。そこで、昨年末の代表訴訟制度の改正などコーポレート・ガバナンスに関する商法改正も含め、経済法規委員会の西川元啓経済法規専門部会長より、最近の商法改正について、株主総会、取締役会についての改正など会社機関に関する見直し部分を中心に報告を行った。

○ 西川経済法規専門部会長説明

  1. 商法改正の概況
  2. 経団連では、かねてより国際的な大競争時代における企業の競争力を高めていく上で、会社法をはじめとする経済法制の機動的な再編、整備が必要であると訴えてきた。
    こうした働きかけを受けて、昨年春の通常国会では金庫株の解禁、法定準備金の使途の緩和等の改正が行われ、昨年秋の臨時国会では、ストック・オプション制度の改善や会社関係書類の電子化などを内容とする改正と、監査役制度の強化と取締役等の責任軽減、代表訴訟制度の見直しを柱とするコーポレート・ガバナンスに関する商法改正が行われた。
    さらに、現在、開会中の通常国会においては、株式制度、会社機関、計算・開示、その他にわたる大幅な商法改正の法案が提出される予定である。

  3. 取締役等の責任軽減・代表訴訟制度の改正
  4. 取締役等の責任軽減については、取締役・監査役の行為が、故意・重過失によらなければ、一定の方法により、代表取締役については報酬等の6年分、取締役については4年分、社外取締役、監査役については2年分まで責任を軽減することができる。一定の方法とは、第1に株主総会により特別決議を得て軽減することである。第2に定款で事前に授権を得た取締役会の決議を得て軽減することである。第3に社外取締役についての特則として、事前に責任を限定する特約を結ぶことである。
    また、代表訴訟制度の見直し事項としては、和解の手続や会社が被告取締役を支援するための補助参加の手続が整備された。なお、取締役の責任軽減が法定されたことは高く評価できるが、その内容は、アメリカ等に比べてまだ見劣りする。今後、実務を進めていく中で、課題を整理し、代表訴訟制度を含め、より望ましい制度のあり方について検討を深め、機会を捉えて、意見を述べていきたいと考えている。

  5. 株主総会手続規制の緩和
  6. 次に、今通常国会の商法の抜本改正のうち会社機関に関する改正について説明する。
    まず株主総会関係であるが、外国人株主の増加などにより、各社とも特別決議の定足数確保に大変、苦労する状況になっており、経団連では、これに対応した改正を求めてきた。今回の改正案では、株主提案権の行使期限が6週間前から8週間前に繰り上げられたことにより、招集通知を早期に発送することが可能となった。また、株主総会の特別決議の定足数を緩和し、定款で定足数を議決権総数の過半数から3分の1超へと引き下げられることとなった。

  7. 取締役会に関する改正
  8. 一方、取締役会については、法制審議会の委員である学者や法務省の強い働きかけで、当初、大会社に社外取締役を最低1名義務付け、取締役の任期を一律1年とするという提案がなされていた。しかし、経団連の強い主張の展開により、社外取締役の義務付け、任期の1年化はなくなった。結果として、ガバナンスのあり方について選択制が導入されることとなった。
    第1の選択肢が現行型の経営組織である。昨年秋のコーポレート・ガバナンスに関する商法改正において、監査役制度が強化されたので、3月決算の大会社では、4年後の2006年6月の定時総会において、社外監査役を半数以上とする必要がある。
    第2の選択肢は、重要財産等委員会(仮称)の設置会社である。社外取締役1名以上を含む取締役10名以上の会社においては、重要財産等委員会を設置することができる。重要財産等委員会は、取締役のうち3名以上で組織され、取締役会の決定すべき事項のうち、重要財産の処分・譲受、多額の借財という2つの事項について、取締役会から権限委譲を受けることができる。
    第3の選択肢は、委員会等設置会社と称しており、社外取締役が過半数となる3つの委員会(監査委員会、報酬委員会、指名委員会)と執行役を置く。取締役の業務執行権限は基本的に執行役に委譲して、取締役は、経営の基本方針等を立案するほかは、執行役の選解任と監督に特化した役割を果たすアメリカ型の組織である。この会社には監査役、代表取締役を置くことはできない。また、株主総会における利益処分案の決定権限等を取締役会に委譲することができる。ただし取締役の任期は他の選択肢の会社と異なり1年となる。
    この法改正案は、社外取締役を置いた会社は、そうでない会社に比べてガバナンスが優れているとの考えの下に権限委譲を認めるという構造になっているが、この考えは多数の社外取締役を擁していたエンロンのケースをあげるまでもなく必ずしも是認できるものではない。ガバナンスのあり方は企業がそれぞれの環境の中で最適なものを決めるのであって、どちらのガバナンスが優れているとか、劣っているとか、そういったものではないと考える。
    経団連としては、株主総会から取締役会への権限委譲は、定款自治の拡大の観点から、すべてのタイプの会社について行われるべきであるということを主張してきたが、今回の法改正案では、受け入れられるに至らなかった。今後、他の改正事項も含め、実務の運用の中で問題点を整理しながら、機会を捉えて、これまで通りの考え方を主張をしていくので会員企業各位の理解を得たい。


くりっぷ No.164 目次日本語のホームページ